【レースフォーカス】不振に終わったクアルタラロ、バニャイア、A.エスパルガロ、それぞれの理由/MotoGP第16戦日本GP

 MotoGP第16戦日本GPは、タイトル争いを演じるファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)、アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング)が軒並み表彰台を逃す結果となった。そればかりか、ランキング2番手のバニャイアと、ランキング3番手のアレイシ・エスパルガロはノーポイントに終わっている。彼らが苦戦した理由は何だったのだろうか。

■ファビオ・クアルタラロの理由

 クアルタラロは9番グリッドからスタートし、2周目に8番手にポジションを上げてそのままの位置でゴールした。終盤には背後にバニャイアが迫ったが、バニャイアは最終ラップで転倒している。これについては後述するとして、まずはクアルタラロのレースである。

 クアルタラロは8位で終えたレースを振り返り、「全くオーバーテイクができなかった。彼らの後ろで走っていて、僕はほかのライダーとは全く違う走り方をしていた。セクター2、3で追いつくんだけど、セクター1、4ではかなりタイムロスしていたんだ」と、沈んだ声で語った。

 クアルタラロは土曜日に、オーバーテイクのポイントを聞かれ「今のところ、7コーナーかな」と答えていた。しかしレースでは、その7コーナーでも前を走るマーベリック・ビニャーレス(アプリリア・レーシング)をかわすことはできなかった。クアルタラロはそれについて「特にタイヤのタレ。それはちょっとしたものなんだけど。特にニュータイヤのタレはかなり少ない」と説明している。

「(今回は)7コーナーでのオーバーテイクを見なかった。そこは本来、オーバーテイクポイントだったのに、不思議だった。今年は違ったんだ。レースではずっとマーベリックの後ろにいた。オーバーテイクできなかったんじゃなく、トライができなかったんだ」

 苦戦の原因はほかにもある。レース前に行った「小さな変更」が影響した。また、タイヤの選択もベストではなかった。今回は天候によって決勝レースのような路面温度、ドライコンディションでの走行が少なく、特にリヤタイヤの選択は重要であり、同時に難しいものだったのだ。クアルタラロが選んだのはフロントにハード、そしてキーポイントだったリヤタイヤは、ミディアムだった。

「レース前に小さな変更をしたんだ。それほど影響は大きくないだろうと思っていたけど、悪い意味で大きな影響を及ぼした。だから自分たちの小さなミスのようなものなんだ」

「でも、タイヤ選択も正しくはなかったと思う。ドライコンディションでの走行時間が少なく、僕たちはソフトとミディアムを試しただけだった。ハードを試さなかったのはミスだったな」

 様々な要因が重なり、日本GPはクアルタラロにとって、満足のいくレースにはならなかった。ただ、タイトル争いのライバルである、バニャイアとアレイシ・エスパルガロがノーポイントに終わったことで、バニャイアとは18ポイント、アレイシ・エスパルガロとは25ポイントにポイント差を拡大している。これはクアルタラロにとって、一つの幸運だったと言えるかもしれない。

■フランセスコ・バニャイアの理由

 バニャイアのレースはチェッカーを受ける前に終わってしまった。レース終盤、8番手のクアルタラロに迫ったバニャイアは、最終ラップの3コーナーでクアルタラロをオーバーテイクしようとして転倒。リタイアとなってノーポイントで日本GPを終えた。

「大きなミスをしてしまったよ。今日はオーバーテイクで苦戦していた。ブレーキングではすごく強かったけど、トラクションがベストではなくて、加速でタイムをロスしていた。今回はちょっと考えが甘かった。ただ一つ幸運だったのは、転倒したときにファビオと接触しなかったことだね」

 バニャイアは優勝したサンマリノGPまで、「チャンピオンシップのことはチャンピオンシップリーダーと5~10ポイント差になってから考えるよ。これまで僕はチャンピオンシップを考えてたくさんミスをしてきたから」と語り、あくまでもチャンピオン争いではなく目の前のレースが重要であると強調してきた。

 この言葉が変わったのは、バニャイアが2位を獲得し、クアルタラロが他車との接触によって転倒リタイアに終わったアラゴンGP後だ。日本GPの前週に行われたアラゴンGPで、バニャイアはランキングトップのクアルタラロとのポイント差を10に縮めていた。

 そして「10ポイント差というのは、シーズン序盤から比べたら接近している。もちろん、チャンピオンシップについて考えていくよ。でも、考えすぎない」と述べていたのだ。日本GPでは、皮肉にもサンマリノGPでバニャイア自身が語った通りの展開となってしまった。

「1ポイントが違いを生むかもしれない。だから(ファビオをオーバーテイクすることに)トライした。でも欲張りすぎだったのかもね。ファビオの後ろでフィニッシュするか、または安全にオーバーテイクできるようなチャンスを待てばよかったんだ。レース後にそう思うよ。でもそのときは、僕はファビオをオーバーテイクしたかった。そしてマーベリックに接近して、もし彼がミスをしたらパスしたいと考えていたんだ。チャンピオン争いに勝つためにできることはそれだけだった。プレッシャーのためにミスをしてしまった」

 シーズンも終盤に入り、タイトル争いを繰り広げるバニャイアが1ポイントの重さを考えることは当然だろう。ただ、今回に関してはその代償が大きかった。バニャイアはランキング2番手を維持しつつ、クアルタラロとのポイント差は18に広がった。

■アレイシ・エスパルガロの場合

 憤懣やるかたないレースとなったのが、アレイシ・エスパルガロだった。クアルタラロ、バニャイアよりも前の6番グリッドからスタートするはずだったアレイシ・エスパルガロ。しかしスタート直前にコースを一周してグリッドにつくウオームアップラップを走りだすと、アレイシ・エスパルガロのマシンのスピードは明らかに遅かった。そしてグリッドにはつかずピットイン。素早くバイクを乗り換え、ピットレーンからレースをスタートした。最後尾から追い上げ、16位でゴールしている。

 アレイシ・エスパルガロがレース後に語ったところによれば、燃料をセーブするためのマッピングをチームが解除しなかったことが原因だったという。つまり、ヒューマンエラーだった。

「それは燃料をセーブするためのもので、『エコ・マップ』と呼んでいるんだけど、バイクが100km/h以下、5000rpm以下になってしまうんだ。いろいろやってみたけどうまくいかなくて、ピットでバイクを乗り換えた」

 だが、乗り換えたセカンドバイクはアレイシ・エスパルガロが当初選んだタイヤを履いていなかった。グリッド上でアレイシ・エスパルガロが選んだのは、フロントにハード、リヤにミディアム。セカンドバイクはリヤにソフトが装着されていた。

「セカンドバイクはリヤにソフトタイヤを履いていて、そのタイヤでは走れなかった。最初からバイクがフロントをプッシュしているのがわかって、僕はただ、クラッシュしないように努めたよ。とてもナーバスにもなっていて、かなりミスをした。だから転倒しないように走って赤旗とかそういったものを待つことにしたけど、そういうことは起こらなかった」

「セカンドバイクは全く乗っていなかった。そしてソフトタイヤは全く好ましいものではなかった。ミディアムタイヤを履いた最初のバイクでは、少なくともジャックのように1分45秒中盤のタイムを出せただろう。残念だ」

 アレイシ・エスパルガロにとって何より悲しかったのは、クアルタラロやバニャイア、そして表彰台を獲得したライダーたちと戦う土俵に立つこともできずにレースを終えざるをえなかったことだった。「彼ら(クアルタラロやバニャイア)が優勝や2位で終えていたら、チャンピオンシップについてそれは最悪だっただろうけど、それほど怒りはなく、それほど悲しくもなかっただろうな」とアレイシ・エスパルガロは言う。

「僕にとっては最悪のレースだった。だって大きなチャンスを逃したんだから。すごく悲しいよ。今日は彼らよりも速いとわかっていた。でもファビオとペッコ(フランセスコ・バニャイア)よりも速く走ることはとても難しかった。大きな損失だ」

 そして3連戦最後のレースとなる第17戦タイGPについて「チャンピオン争いのことは気にせずに、勝ちたい。タイGPについてはそれだけを考えている」と語っていた。2022年シーズンは残り4戦。日本GPを終え、ランキング2番手のバニャイアとの差は変わらず7ポイントだが、ランキングトップのクアルタラロとのポイント差は25に拡大している。

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