定置網を破る「急潮」福井県で甚大な被害 6月以降何度も…アジやブリ水揚げ減り漁師嘆き

急潮により破損した定置網。6月以降、急潮が頻発している=福井県越前町小樟
急潮により破損した定置網=福井県越前町小樟

 福井県の越前町漁協の小樟と米ノの定置網で今年6月以降、潮の流れが突発的に速くなる「急潮(きゅうちょう)」により、網が破れるなど大規模な被害が出ている。網や固定ワイヤなど漁具の被害総額は最大約2億6千万円に上る見通しで、小樟では年内の操業が見込めない状況だ。アジやブリなどの水揚げの減少は地元旅館などにも影響を及ぼしている。県定置漁業協会などは9月27日、県に復旧へ向けた支援を要請した。

 今年6月中旬ごろから、小樟の定置網付近の計測機器で、漁具に被害が及ぶ可能性がある流れの速さ1ノット(毎秒50センチ)を超える急潮をたびたび観測。7月下旬からは頻発し、2ノット近く記録した日もあった。

 急潮は台風や低気圧の通過など、さまざまな要因で発生する。県水産試験場によると今年は、若狭湾沖に冷たい海水の塊「冷水塊」が現れ、北上する対馬暖流を湾内に押し込んで流れの速い渦が発生したことが主な要因という。冷水塊の発生理由は分かっていない。

 小樟では8月中旬、急潮により網を固定するワイヤが切れて網が沈んだほか、浮きや重りが流され絡み合うなど定置網全体に甚大な被害が出た。米ノでも7月中旬に網やロープが一部破損するなどし、補修しながら操業を続けている。越前町漁協によると、破損した漁具の改修には小樟が最大約1億3700万円、米ノで同約1億2500万円かかる見込み。

 急潮発生以降、小樟、米ノとも出漁できる日が少なくなり、7月下旬~8月末の出漁は数日程度。両定置網で今年4~8月の水揚げ高は計約4200万円で、前年同期と比べ半減しているという。地元の民宿や旅館、料理店なども魚介を仕入れることができず、ある旅館は「地場の魚の新鮮さを売りにしているが、提供できないのはつらい。水揚げが少なく価格も上がっている」と話す。

 小樟定置網組合の船頭の榎太喜男さん(75)は「これまでも急潮はあったがこんなに大規模で、頻発するのは初めて」と嘆く。同町漁協の小倉孝義専務は「大雨による陸地の被害が多いが、海の中でも自然災害が起こっている。われわれの力だけではどうにもできない」と訴えた。

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