行きたい、帰りたい…ビーツの絵に募る思い 戸田のウクライナ人女性、戦乱の故郷へ「何かしたい」

アナスタシアさんが描いたビーツ

 埼玉県戸田市国際交流協会でウクライナ人女性、アナスタシアさん(30)が避難民の支援活動担当者として働いている。ロシアのウクライナ侵攻という事態を受けて同協会に迎えられた。そのアナスタシアさんが、取材に訪れた記者に、小さな絵を描いてくれた。手元にあったピンクのメモ用紙に描かれたのは小さなカブだった。

 「2月のロシア軍の侵攻の時、何が起きているのか理解できなかった。なぜ、どうして。テレビニュースを見るのが怖かった。今も怖い。見てもどうしようもない自分がいる。メンタル的に耐えられない…でも、何か古里のためにしたいと思っている」と話しながら絵は完成した。

 ウクライナの家庭では、昼と夜はボルシチと呼ぶスープ。カブなどの野菜、肉団子、麺類も入れる。「母と一緒に住む祖母が作るボルシチがおいしい。細く刻んだキャベツや、ビーツも入ってる」

 「ビーツってどんなものですか」と聞くと、アナスタシアさんは手元のメモ用紙にボールペンを走らせていた。葉が生えたままの小さなカブだった。ヨーロッパではポピュラーな野菜で、日本でもテンサイ糖の原料として北海道で栽培されている。アナスタシアさんは望郷の思いをこの絵に込めたのだった。

 2014年のロシアによるクリミア半島占領のころに半島にある大学を卒業した。そのころ、街の様子が何か変だと思ったが、ロシア軍による占領だとはっきりと分からなかった。翌2015年に日本に留学した。それからずっと日本にいて、今は戸田市で小学生の息子を育てている。

 実家はクリミア半島の海の街ケルチ。昔は造船の街だった。そこに母がいる。もう7年間会っていない。

 「行きたい、帰りたい。でも今の状況では、いつ行けるか分からない。ウクライナも便利になっているらしい。アプリで支払いもできる。食べ物もたくさんになった。レストランのメニューも日本と変わらない。豊富だ。平和だったら…」と故郷への思いをはせる。

ビーツを描くアナスタシアさん=埼玉県戸田市の国際交流協会

© 株式会社埼玉新聞社