第13回「地ビールメーカー動向」調査  60%強が値上げを実施・予定、原材料の高騰が不安材料

 主な地ビールメーカー66社の2022年1-8月の総出荷量は7,814.8㎘で、前年同期を20.1%上回った。コロナ禍の2020年調査では、調査を開始以来、初めて1-8月の出荷量が前年同期を下回ったが、2021年は巣ごもり需要を取り込んでネット販売に力を注いだ企業が多く、出荷量は2年ぶりに増加した。2022年もスーパーやコンビニ向けの販売が好調で、出荷量は急回復した。

 ビール大手4社が発表した2022年1-6月のビール系飲料(ビール、発泡酒、第三のビール)の販売数量は、10年ぶりに前年同期を3.0%上回った。2021年は新型コロナ感染拡大で飲食店向け需要が落ち込んだが、2022年は業務用、家庭用いずれもビール販売が回復した。
 ビール大手4社の8月のビール系飲料合計販売数量は、前年同月比18.0%増と大幅に伸ばした。新型コロナ感染対策で飲食店に要請されていた酒類販売の制限が解除され、客足が戻りつつある業務用を中心に、順調に推移した。
 一方、地ビールメーカーもスーパーやコンビニに加え、ビアパブの新規開拓などの地道な営業で出荷量を伸ばした。地ビールメーカー各社はこぞって香り、泡、炭酸、風味にこだわり、本来の美味しいビール作りで消費者ニーズを取り込むことに努めてきた。
 大手メーカーの汎用性か、地ビールの希少性か。お互いに強みを前面に押し出すが、根強い地ビールブームをさらに発展、継続させるため、生き残りをかけた施策が問われている。 

  • ※本調査は、2022年9月1日~29日に全国の主な地ビールメーカー239社を対象にアンケート調査を実施、分析した。出荷量は2022年1-8月の出荷量が判明した66社(有効回答率27.6%)を有効回答とした。その他の項目は、回答が得られた72社(有効回答率30.1%)を有効回答とした。
  • ※本調査は2010年9月に開始し、今回で13回目。

 

2022年1-8月の主要66社の総出荷量 前年同期比20.1%増

 出荷量が判明した全国の地ビールメーカー66社の2022年1-8月の総出荷量は、7,814.8㎘(前年同期比20.1%増)だった。2022年1月の出荷量は795㎘(前年同月比29.9%増)と好調にスタートした。
 3月は871㎘(同5.8%増)と伸びがやや鈍化したが、3年ぶりに制限なしの大型連休となった5月は、各地で人出が大幅に増加。出荷量は1,035㎘と前年同月比42.5%増と大幅に伸ばした。その後、6~8月も出荷量は順調に推移し、近年は天候不順などで出荷量が落ち込むことが多かった8月も1,066㎘(同21.0%増)と1,000㎘の大台を維持した。

地ビール

 

出荷量 増加は69社

 2022年1月-8月のアンケート回答が得られた71社のうち、出荷量の「増加」は69社(構成比97.1%)、「減少」および「横ばい」は2社(同2.8%)だった。
 出荷量増加の要因(複数回答)は、「スーパー、コンビニ、酒店向けが好調」が34社、イベントへの参加や観光需要回復など「その他」が25社、「飲食店、レストラン向けが堅調」が24社と、コロナ禍での需要開拓が実ったようだ。また、積極投資による生産設備の強化もプラス効果を生み、「生産設備の増強」も7社あった。
 一方、減少の要因(複数回答)は、「物価上昇による消費の抑制」が2社で、「観光需要の喪失」が1社だった。

地区別出荷量 9地区すべてで増加

 66社の実質本社の地区別では、出荷量は9地区すべてが増加した。最多は、関東の3,432.7㎘(前年同期比5.4%増)だった。
 増加率トップは、中部の565.8㎘増(同50.1%増)で1.5倍増となった。出荷規模の大きいメーカーが出荷量を大幅に伸ばしたことが寄与した。
 地ビール、クラフトビールのブームは全国に広がり、大消費地の関東や中部、近畿圏のメーカーが出荷量を伸ばした。

地ビール

スーパー、コンビニ、酒店向け販売が回復

 売上比率の一番大きい販売先(有効回答70社)では、最多は「スーパー、コンビニ、酒店」の31社(構成比43.7%)で、自社販売(イベント販売含む)も19社(同26.8%)あった。
 2022年の商流の変化について(有効回答72社、複数回答)は、最多は「スーパー、コンビニ、酒店向けの販路を拡大した」と、「スーパー、コンビニ、酒店向けの売上が伸びた」が各26社。
 次いで、「特に変わらない」が22社、「インターネット通販の売上が伸びた」が19社、「インターネット通販の販路を拡大した」が11社だった。小売店卸だけでなく、ネット関連のシェア拡大による新たなマーケット開拓に力を注いだ結果が実ったようだ。
 一方、「飲食店、レストラン向けの販路を縮小した」も3社あり、まだコロナ禍の影響に苦慮している様子も窺える。

地ビール

今後の事業展開 地元中心に東京進出も視野、独自の味を追求

 今後の事業展開(有効回答71社)では、「自社地元」の販売に力を入れるが49社(構成比68.1%)と約7割を占めた。次いで、出荷量の増加が期待できる「東京都市部」への進出に意欲をみせるメーカーも13社(同18.1%)あった。
 都市部を中心に根強いビアパブ人気にあやかり、都市圏で知名度を上げたい地ビールメーカーは多く、自社単独でアンテナショップを出店するメーカーも増えている。だが、その一方で地元にこだわるメーカーも少なくない。
 大手4大メーカーが地ビール、クラフトビールの製造販売に乗り出す動きも本格化している。中小の地ビールメーカーも差別化のため、「独自の味」に注力するが46社と6割以上のメーカーが独自の味にこだわりをみせる。一方で、「大手を意識せず従来通りの営業を進める」と独自の道を究めるメーカーも27社あった。
 「独自の味」「大手を意識せず従来通りの営業を続ける」など、大手メーカー参入が市場掘り起こしにつながると前向きに受けとめ、独自路線に意欲をみせる地ビールメーカーは多い。
 大手メーカー参入を契機に、市場の健全な共存共栄を目指す中小メーカーが増えている。

地ビール

メーカーの60%強が値上げを実施・予定、原材料の高騰が不安材料

 商品価格について、「まだ実施していないが今年中に値上げを予定」が26社(構成比36.1%)、「この1年で値上げを行った」が18社(同25.0%)で、6割超のメーカーが値上げを予定、もしくは値上げを実施した。一方、「値上げはしたいができない」「値上げの予定はない」は各14社(同19.4%)だった。
 コロナ禍での今後の懸念(有効回答70社、複数回答)は、「原材料の高騰(燃料代含む)が65社、「為替(円安)」が32社と、半数のメーカーがこれらを不安材料に挙げた。また、「物価上昇による更なる消費の減退」が30社、「イベントの減少や外出機会が元に戻らない」が29社、「レジャー需要に観光地(インバウンド、道の駅なども含む)での消費の減少」が23社、「人件費の高騰(採用難)」が18社だった。

地ビール

出荷量 11年連続でエチゴビール(新潟県)がトップ

 2022年1-8月の出荷量メーカーランキングは、トップが地ビール醸造の全国第1号のエチゴビール(株)(新潟県)で、11年連続の圧倒的な強みをみせた。出荷量は2,302㎘(前年同期比9.0%増)と2位以下を大きく引き離した。エチゴビールの阿部誠社長は、「昨年から年4品限定商品を販売し、市場の活性化と販売拡大を目指す」と、国内販売の強化に努めている。
 2位は「伊勢角屋麦酒」の(有)二軒茶屋餅角屋本店(三重県)の656㎘(同156.3%増)。3位は「べアレン・クラッシック」の(株)ベアレン醸造所(岩手県)の532㎘(同6.8%増)。以下、4位は「網走ビール」の網走ビール(株)(北海道)で482㎘(同35.4%増)、5位は「オラホビール」の(株)信州東御市振興公社が294.5㎘(同2.3%減)で続く。
 1-8月の出荷量が100㎘を超えた地ビールメーカーは18社で、前年より3社増えた。

地ビール

 今回のアンケートで、今後の地ビールメーカーの注力点を尋ねた。
 「力を入れている取り組み、施策」では、「オンラインイベント」「EC」「ノンアル・低アル」を挙げている。そして、クラフトビール市場は、今後も拡大すると予想している。
 2020年~2021年はコロナ禍での家飲み需要でクラフトビールが伸びた。さらに、家飲みでクラフトビールの魅力(美味しさ)を知った消費者が、「飲食店でもクラフトビールをオーダーする好循環」を予想する声もある。
 コロナ禍の影響から脱し、新たな展望を見据えて事業展開を図るメーカーや、「海外展開に力を入れていく。もっとグローバルに見ていく」と、海外輸出で売上増を見込むメーカー、「OEM製造の強化」をあげるメーカーも多い。
 一方、「地ビール製造・販売を休止した。免許を取り消す予定」との回答もあり、需要減少で先行きが見通せず解散や廃業に追い込まれるメーカーも出始めた。
 国税庁によると、2020年度の地ビール製造免許場数は405カ所、製造者数は376者と過去最多を更新した。1994年の酒税改正でビール製造免許に係る最低製造数量が2,000㎘から60㎘に引き下げられたほか、2017年の税制改正でビールの定義が拡大され、地ビール業界への新規参入が増えた。
 だが、今後の地ビール業界が安泰とは言えないようだ。「条件緩和による生産工場の乱立が起こり始めている。安定した品質で提供を行っている者として懸念している」「ブルワリーが増加しているのは良いことだが、粗悪なビールが出てきていることも事実。20数年前の地ビールブームのようにならないよう取り組まなければならない」と、第一次地ビールブームの終焉再来を危ぶむ声もある。
 また、アンケートでは、「原材料の高騰(燃料代含む)」「為替(円安)」「物価上昇による更なる消費の減退」などを懸念するメーカーも多い。なかでも、原材料高騰を商品価格に転嫁できないメーカーは14社(構成比19.4%)と多い。
 10月1日、ビール大手4社はビール系飲料の出荷価格を一斉に引き上げた。9月の駆け込み需要による反動減など、値上げ後のビール市場は見えにくい。地ビールメーカー各社も値上げ後の反動減をいかに抑え、市場活性化を持続するか。地ビールメーカーの戦略立案と実行力が問われる時代を迎えている。

© 株式会社東京商工リサーチ