<南風>読書

 小学校の図書室はカラフルな絵が描かれた本が並べられ、視覚的にも楽しく、本棚の間を通れば少し薄暗く隠家的でワクワクした。よくそこに座り込んで本を読んだ。家では小学館から出ている雑誌も定期的に買ってもらい、隅から隅まで熟読する子どもだった。

 社会人になり余裕のある給料ではなかったので、容易に本を買うこともできず迷いに迷って買った380円の手のひらサイズの文庫本。題名は忘れたがパナソニック創業者の松下幸之助氏の本だ。手に取った当時はその人の偉大さを知らずに購入したが、感動したと同時にこういう人になりたいと強く思った。

 今までは物語のような本を読むことが多かったが、この本に出合い、人生論や自己啓発的なジャンルの本が好きになっていった。次の本を選ぶとき、よくテレビに出ていた政治評論家の竹村健一氏の文庫本が目にとまった。購入してみたが読み始めから批評する文章が気に入らず、何だか面白くない。しかし読み進めていくうちに反論しながら本と会話をしている自分に気付き、一気にその本の魅力に引き込まれていった。

 当時はやりの高級そうな本「ノルウェイの森」や「サラダ記念日」などを同僚から借りたが、お気に入りは松下氏の文庫本だった。私の読書は、好きな本を何度も読み返す読み方が多い。何度読んでもその時々で自分に腹落ちしてくる文言が変わり、その文言で激励されることも多いからだ。

 だがコロナ禍になり気落ちしている時、愛読書に手が伸びずファンタジー系の漫画を読むようになった。あり得ないことがあり得るように思う夢のある本の世界もまた、素晴らしいと思う。もう少し後になるが、私は心に余裕のあるおばあちゃんになってロッキングチェアに座り、その時々で心弾む本を読んでいる自分の青写真を描いている。

(澤岻千秋、御菓子御殿専務取締役)

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