<書評>『事典 太平洋戦争と子どもたち』 戦後も連続する「記憶」

 大人たちのエゴによって、戦争に巻き込まれた子どもたちは、戦前・戦争中をどのように生き、戦後はどのような苦難を強いられてきたのか。本書は、戦前の学校・地域における教育システム、戦争へと向かう法整備の実態、戦後の子どもたちの生活実態など、子どもたちを取り巻く社会構造を念頭に置きながら、彼らがどのような人生を歩んできたのかを振り返る。

 本書は47の問いを設定し丁寧に検討した「事典」であるため、読み手の関心に合わせて読むことができる。また、それぞれの問いを関連させながら、その関係性を把握することもできる。

 本書は7部構成となっている。まず始めに、子どもたちが戦争体制へと巻き込まれていく過程を整理し、その後、彼らの戦争体験とはいかなるものであったのかを検討し、本の後半では子どもたちの戦後史を描いている。また、本書全体を通して、子どもの多様性を描いているところも重要である。例えば、障がい児の人生とはいかなるものだったのか、孤児となった子どもたちは戦後をどう生きたのか、トラウマ(心的外傷)を抱えた子どもたちはどういった様子だったのかなどの話が紹介されている。そうした子どもたちが、確かに生きていたという証しを、証言記録や歴史資料からすくい上げている。

 本書の中で、「戦争体験は過去に置き去りにされるのではな」いという指摘がある(18ページ)が、戦争体験という戦時中の限られた時間だけを切り取ると、その言葉の本質を理解するのは難しい。そこを理解するためには、子どもたちの「人生」を一貫して捉えることが必要である。そうすることで「戦争の記憶」が戦後も連続しているということを明らかにすることができ、日常の中に戦争の影が潜んでいることが理解できるからである。

 大人が起こした戦争が子どもたちの未来を奪うということに、あなたは気づいているのだろうか。本書に吹き込まれた子どもたちの声から、そう問いかけられている気がする。

 (石川勇人・沖縄国際大大学院修士課程在籍)
 浅井春夫(立教大名誉教授)、川満彰(沖縄平和ネットワーク会員)、平井美津子(大阪大非常勤講師)、本庄豊(立命館大非常勤講師)、水野喜代志(なかま共同作業所施設長)の各氏が編者を務め、その他14人が執筆した。

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