相続税の基礎控除額はいくら?実家が課税対象になるか判断する方法とは

いざ遺産を相続することになった際、自分が相続税の課税対象になるのか、どう判断すればよいのでしょうか?

宅地建物取引士で上級相続診断士の小島一茂 氏の著書『“負動産”にしないための実家の終活』(同文舘出版)より、一部を抜粋・編集して相続税について解説します。


我が家は相続税がかかるの? 相続の基礎知識

相続税法の改正で支払う人が増えた!

以前まで相続税といえば、リッチな人だけが心配する税金という印象がありました。

しかし2015年に相続の基礎控除額や税率が改正され、相続税の対象となる人が大幅に増えました。

特に都市部に自宅がある場合は、その相続税評価額が高いために、遺産総額が基礎控除の範囲を超えてしまい、相続税の対象になる可能性が高いといえます。

公益財団法人 生命保険文化センターの調べによると、死亡者数に対する相続税課税件数の割合は、8.8%。 1割弱の人に相続税の支払い義務がある ということ。特別多くはありませんが、「相続税なんて自分には関係ない」ともいい切れない数字です。

まずは、自分が相続税の課税対象になるかどうか、予想をつけておくことは大事です。あらかじめ知っておけば、事前の対策もとれるからです。

自分は法定相続人に当てはまるか?

そもそも遺産を受け継ぐことができるのは、原則として法定相続人です。

では法定相続人とは誰なのでしょうか。下記の図をご覧ください。これは夫婦のうち夫が亡くなり、夫が被相続人となったケースです。

この時、被相続人に対して配偶者は常に相続人となります。婚姻届が出ていれば、たとえ別居中でも配偶者とみなされます。

配偶者以外の家族(血族相続人)については、優先順位が決められています。

被相続人に1人でも子どもがいれば、その子ども(養子を含む)が第一順位の相続人となります。

子どもがいない場合は、第二順位である直系尊属(父母や祖父母)が相続人となり、さらにそれらもいなければ、第三順位として兄弟姉妹およびその代襲相続人(おい・めい)が相続人となります。

各相続人の間で相続財産を分けることになりますが、誰がどれだけ相続するか(法定相続分)は法律で決まっています。代表的なケースでいえば次の通りです。

【配偶者と子どもが相続人のケース】
配偶者が全遺産の2分の1、子どもが2分の1を相続する。子どもが複数いる場合は、2分の1を子どもの数で分割する。

【被相続人に子どもがいないケース】
配偶者が全遺産の3分の2、直系尊属である父母や祖父母が3分の1を相続します。

【被相続人に子どもも直系尊属もいないケース】
配偶者が全遺産の4分の3、第三順位の兄弟姉妹が4分の1を相続します。

なお、これらの法定相続分はあくまでも法律で決められた分割方法なので、本人たちが協議して納得すれば、この通りの分け方をする必要はありません。

法定相続人以外が相続人になるケースもあります。被相続人が遺言で指定した相続人です。法定相続分より指定相続分が優先されることになります。

ただし法定相続人は、遺言の内容に納得できない場合、最低限これだけは受け取ってもよいとされる相続分(遺留分)を請求することも可能です。

■法定相続人とは

■各相続人の法定相続分

相続税には基礎控除がある

相続が発生した時には、相続人の間で遺産を分けるのですが、相続税がかかる遺産には基礎控除があります。

「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。

たとえば夫が亡くなり、妻と子1人が法定相続人となった場合、基礎控除の額は3000万円+(600万円×2)=4200万円となります。

この場合、遺産の総額が4200万円以下であれば、相続税の支払い義務はないということです。

基礎控除額は法定相続人が増えるほど上がります。法定相続人が3人なら4800万円、4人なら5400万円となります。

たとえば被相続人が都市部にマンションを持っていて、他に主な遺産がなく、相続人が3人の場合、マンションの相続税評価額が4800万円以上なら相続税がかかってくる可能性があるということです。

なお相続財産には、現預金や不動産、有価証券などすべての財産を含みます。プラスの財産だけでなくマイナスの財産、つまり借金も含めて計算します。

被相続人が持っている財産と負債を合計して、基礎控除額よりも多いという結果になったら、相続税の納税義務が発生するということです。

ただやはり、財産のなかでは不動産の占める割合が多いのが一般的です。残された財産はほとんど不動産だけで、後は現金が少しあるだけ、というケースはよくあります。

したがって、 親の実家の不動産価値が、相続税支払いの成否を分ける といえます。「財産なんてほとんどなさそう」と相続税の心配をしていなかったのに、実は実家の不動産の価値が高く、相続税の対象になるということもあります。

そして相続税を支払うだけの現金がないために、不動産を売却して納税資金に充てるというのもよくあるケースです。

実際に相続することになってから慌てないためにも、親の財産状況を把握したら、不動産の価格についてざっくりと計算してみましょう。

不動産評価額を試算する方法は、本書籍4章で解説しているので確認してみてください。わからない場合には地元の不動産会社に聞いてしまうのが近道です。

そして不動産を含む財産総額を計算して、相続税の支払い対象になりそうかどうか、確認してください。

その結果、多額の相続税の支払いが発生しそうなら、今からできる対策はないか検討しましょう。

失敗しない相続税の"節税"方法

相続発生後にできることは少ない

相続税を減らしたい場合、何ができるのでしょうか。

前述のように、相続税は相続財産の額に対して税率を掛けて金額を求めます。相続税率は、財産の金額が多ければ多いほど上がる、超過累進税率が採用されています。

最高税率は55%にもなるので、財産の多い家庭にとっては頭の痛い課題です。

相続税を節税する基本的な方法は、相続財産の額を減らすことです。相続発生前にできる対策として、次の方法があります。

  • 現金を不動産に替えておく(評価額が下がる)
  • 生前贈与をして財産を減らしておく
  • 生命保険の非課税枠(500万円× 法定相続人の数)を使う
  • 孫を養子縁組みするなどして相続人の数を増やす
  • 小規模宅地等の特例を利用する
  • 自宅をリノベーションして現金を減らす
  • 墓や仏壇など非課税財産を買っておく
  • 財産を寄付する

詳しくは説明しませんが、相続発生前であればいろいろな手法があるので、税理士などに相談のうえ実施するといいでしょう。

では相続発生後にできることはあるでしょうか。

相続税の申告時に、特例・控除(小規模宅地等の特例、未成年者控除など)をあますところなく利用する、債務や葬儀費用をきちんと計上するくらいで、できることは限られています。やはり 生前対策が重要 ということです。

相続税の負担が軽くなる小規模宅地等の特例とは

評価額が8割減額になる

不動産の相続を考えるうえで、知っておきたい相続税の軽減制度があります。その一つが「小規模宅地等の特例」です。

被相続人が住んでいた家を、 配偶者や同居家族が相続する場合は、その土地の330平方メートルまでの部分について相続税評価額が80%減額になる という特例です。

たとえば、相続税評価額が1億円の土地に建っている実家を相続したとします。特例がない場合は、土地評価額1億円に対してそのまま相続税がかかってきてしまいます。

しかし特例を適用すれば80%評価減になりますから、土地部分の相続税評価額を2000万円に圧縮でき、その分、相続税の負担も軽減されるわけです。評価額の高い不動産を相続した時には使わないともったいない制度です。

この特例は、相続の発生時点で、被相続人がその自宅に住んでいることが基本ですが、被相続人が老人ホームに入っていた場合には、要介護・要支援認定を受けていて、自宅を貸し出していなければ特例の要件にあてはまります。

同居の子どもが適用を受ける場合は、相続税の申告期限までにその実家を所有し、住み続ける必要があります。

なお相続したのが配偶者の場合は、要件なしで常に特例が適用されます。相続発生時点に別居中であっても、相続発生後に売却したとしても適用されます。

つまり空き家の状態であっても、配偶者であれば特例が受けられるということです。

被相続人と同居していなかった子どもでもこの特例を受けられるケースもあります。

俗に「家なき子の特例」と呼ばれ、 相続の発生前3年の間にマイホームを所有していない (つまり賃貸住宅に住んでいる状態)などの要件に合致する必要があります。

居住用の土地以外でも適用される

なお、「小規模宅地等の特例」は自宅の土地だけでなく、事業用の土地(特定事業用宅地等)、賃貸アパートやマンション、駐車場用の土地(貸付事業用宅地等)でも使えます。

特定事業用宅地等の場合は400平方メートルまでの土地について相続税評価額が80%の減額、貸付事業用宅地等の場合は200平方メートルまでの土地について50%の減額となります。

これらは相続開始から相続税の申告期限まで、それぞれの用途(事業用あるいは賃貸用)に使われていることが条件になります。

いずれにしても特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限までに遺産分割協議を終了させ、小規模宅地等にかかる計算の明細書や遺産分割協議書の写しなどと一緒に申告書を提出する必要があります。

相続人や土地の用途によって要件が異なるため、適用が受けられるかどうか判断が難しい場合は、税務署や税理士にご相談ください。

著者:小島 一茂

[(https://www.amazon.co.jp/dp/4495541145)※画像をクリックすると、Amazonの商品ページにリンクします
相続の基本的な知識と、【住む】【売る】【活用する】各パターンのステップや注意点、必要な準備を紹介。
◎相続税や実家の維持コストってどれくらい?
◎空き家を放置したらどうなる?
◎「実家の終活」を進める最適なタイミングは?
◎売却価格を上げるためにやっておくべきことは?

© 株式会社マネーフォワード