<書評>『世界の基地問題と沖縄』 「解決」のために他を知る

 現在、普天間飛行場の辺野古移設問題をはじめ沖縄の基地問題は膠着(こうちゃく)状態にあり、さまざまな論者がさまざまな主張を展開している。こうした中、本書の編者は次のように述べる。「私たちは沖縄の問題を理解するために、あえて一度、沖縄を離れてみなければならない」「膠着する沖縄の基地問題を「解決」に向けて動かしていくための第一歩は、他を知ることにある」

 本書はこのような問題意識にもとづき、沖縄の米軍基地と世界の米軍基地を比較したものである。各章では、世界の基地ネットワークの全体像、沖縄、欧州(デンマーク/グリーンランド、ドイツ、スペイン)、中東・アフリカ(トルコ、サウジアラビアなど)、アジア・太平洋(韓国、豪州、フィリピンなど)、米領(グアム、プエルトリコ)といった国や地域が扱われる。それぞれの章で、基地の歴史、その国の基地問題、地位協定、沖縄への含意が論じられている。すでに同じ執筆陣によって『基地問題の国際比較』も刊行されており、本書はこれを一般向けにしたものである。

 各章ともに読みやすく、得られる知見は非常に多い。本書によれば、沖縄というより「日本の基地がその数、兵員数、空間規模、資産価値のいずれをとっても世界で突出している」という。そうであるならば、沖縄の基地問題とは「沖縄問題」ではなく「日本問題」に他ならない。この点を踏まえれば、本書では「沖縄」や「山口」の章はあったが、日本の安全保障政策・基地政策全般についての分析があってもよかったかもしれない。また、各章の沖縄への含意は、いずれも興味深かったもののややまとまりに欠ける印象を受けた。それは、「沖縄基地問題」とは何なのか、明確な定義がなされていなかったからではないだろうか。その点で、「沖縄基地問題」とは何か、さらに掘り下げ、整理することはまだ必要だと思われる。本書の刊行は意義深く、これを機に沖縄と世界各地の米軍基地についての研究の「対話」がさらに促進されることを期待している。

(野添文彬・沖縄国際大准教授)
 かわな・しんじ 東京工業大准教授。著書に「基地の消長 1968―1973―日本本土の米軍基地『撤退』政策」など。今回の著書ではこのほか13人(13章)が執筆している。

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