突破力

 岸田文雄首相の看板が「聞く力」なら、この人は「突破力」だ。ところで、その“定評”を支えている実績って何だったか…と改めて考えてみて、ようやくたどり着いたのは行革担当相時代の「脱はんこ」宣言ぐらいなのだが▲その“突破力の人”河野太郎デジタル相が現行の健康保険証を2年後の秋に廃止し、マイナンバーカードを代わりに使う「マイナ保険証」に切り替えると発表した。運転免許証との一体化も前倒しを検討するらしい▲カードを持たなければ医者にかかれない…「健康」を人質に、個人の意思に任されていたカード取得を義務化しようというのだ。たちが悪い、というほかに表現を思いつかない▲普及率の頭打ちには理由がある。紛失や盗難やその先の悪用に対する不安は拭えていないし、情報流出の懸念も消えない。それ以前に、このカードがいったい“誰”の利便性を向上させるものなのか、その説明も説得も決定的に不足している▲「突破力」の意味するところは、例えば〈停滞した局面を切り開く力〉だろう。だが、それは、決して〈批判や異論に耳を貸さずに突き進む度胸〉とイコールではない▲粗雑で強引な突破力の出番ではない。不安や懸念や抵抗感を直視し、説明を尽くす時だ。「急がば回れ」-。知らないわけがないのに。(智)

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