第76回「オンド・マルトノ②」

(前回、第75回「オンド・マルトノ①」からのつづき)そして石岡久乃さんのピアノのアルペジオに誘われ、コンサート1曲目は、「ドビュッシー・アラベスク第一番」で幕開け。おおくぼけいと頭脳警察オフィシャルスタッフらと訪れた北沢タウンホールで、1曲目がドビュッシーかいと心の中で笑いが止まらず可笑しくて仕方なかったが、2曲目、3曲目とあのタンゴのピアソラが続き、「アヴェ・マリア」、そして「リベル・タンゴ」と続いた。このところ「タンゴ・グラチア~丹後のガラシャ」という曲を「黒い鷲」で演ることになった由来もあるが、時に一緒にやっている鬼怒無月くんがピアソラの演奏をしていることもあって、オンド・マルトノでタンゴかいと、これは予想を裏切る嬉しさだった。 その後、エル・ギヴソンさんの透き通った歌声に綴られて、室生犀星の詩に谷川賢作くんが曲をつけた作品が続き、ハラダ タカシくんが大好きなジョン・レノンとパブロ・カザルスの話を繋ぎ、カザルスが国連でピース、ピースと鳴いていくと戦争の悲惨さを訴えた「鳥の唄」をモチーフにハラダくんが書いたオリジナル曲「レッツ・ギヴ・ピース・ア・チャンス」が披露され、オリヴィエ・メシアンがセーヌ川をテーマに書いた「水~『美しい水の祭典』より」と続き、一部が終了。 そして二部に入り、このイベントの監督でもある池辺晉一郎さんの、ハラダくんにもっとも変なタイトルの曲と紹介された「熱伝導率~オンド・マルトノのために」という曲に続き、いまだに歴代視聴率1位を誇るNHK大河ドラマ『独眼竜正宗』のテーマ音楽がお約束のように披露される。このクラシカルでたっぷり現代音楽感の溢れるコンサートで、ちょっと浮いた『独眼竜正宗』であったが、あらためて聴かせてもらえば、それはそれは素晴しい完成度とポピュラリティ、大河ドラマ恐るべしということであろうか。そこからトリック・スターのように羽ばたいてくるオンド・マルトノの電子音。なんとも豊饒な気持ちにさせられた瞬間でもあった。 そして最後に、ダリウス・ミヨーの「オンド・マルトノとピアノのための組曲」。 基本的にメロディのない現代音楽は一番苦手とする自分なのだが、隣に座るおおくぼけいはこのミヨーの曲にいたく感動したらしく、あとでツイッターにもコメントを載せていたのがおもしろかった。もともとおおくぼけいは映画音楽をやりたくて、その後、現代音楽を目指していたのだから自分よりもこの手の音楽に対する理解度が数百倍あると思うので、一緒に誘って大正解だった。 後日、ハラダくんらと席でも設け、いつか鍵盤叩き、いやマルトノの場合は擦りかな、鍵盤擦りと叩きな演奏会なりレコーディングなりで一緒にやれたらいいなと強く感じたコンサート後の下北沢珉亭だった。

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