思うべし、思うなかれ

 道沿いを淡いパステル色のコスモスが飾り、思わず足を止める季節になった。事典によれば、中国では「可思莫思」とも記されるらしい。コスモスの発音に近い漢字を当てたのだろう▲「可」を「べし」、「莫」を「なかれ」とすれば「思うべし、思うなかれ」とも読める。決して忘れられない。けれど、思ったところでどうしようもない。見果てぬ夢を追うような、揺れ動く心にも思える▲突然、連れ去られた家族を片時も忘れられない。けれど、思っても思っても帰る気配はなく、つらさだけが募る…。北朝鮮に拉致された5人が帰国して20年がたったが、今なお帰国を待ち続け、心が揺れっぱなしの人々もいる▲帰国20年のその日、地村保志(ちむらやすし)さん(67)は「節目や記念日とは捉えられない」と話した。拉致問題に前進が見られず、節目や区切りを見失った20年でもある▲拉致されたとき13歳だった横田めぐみさんを待つ母の早紀江さん(86)は最近、怒りを隠さない。「のんきに日本の政治が動かないことは不作為としか言いようがない」と▲出方の分からない北朝鮮を前に、日本政府は身動きを取れずにいる。「決意」だけが語られ「外交努力」に行き着かない無策ぶりに、早紀江さんはいらだつのだろう。何も思うなかれ…と政府はまさか目をそらしていないか。(徹)

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