温泉でかかる「入湯税」は江戸時代からあった?意外と知らない日本の税金

秋の行楽シーズンとなり、旅行を考えている方もいるでしょう。温泉に入る時や東京に宿泊する時に税金がかかっていることをご存知でしょうか?

元国税調査官の大村大次郎 氏の著書『世界を変えた「ヤバい税金」』(イースト・プレス)より、一部を抜粋・編集して入浴税や宿泊税などを紹介します。


温泉に入るときにかかる「入湯税」

日本には温泉がたくさんあり、昔から日本の小説や映画、ドラマなどには温泉がたびたび登場しています。

そんな、日本人にとって心のふるさとでもある温泉ですが、入るときに税金がかかっているのをご存じでしょうか?

温泉に入るときにかかる税金を、「入湯税」と言います。市区町村が徴収する税金で、1人1日150円が基準となっています。が、観光地では割増しになっていたり、地元の人が日帰りで使う温泉などは、減額になったり免除になったりもしています。

温泉には江戸時代から税金が課せられており、明治以降も地方税として各地で課税されていました。戦前は温泉だけではなく、銭湯にも課せられるケースもありました。

戦後になると、入湯税は整理され温泉だけに課せられるようになり、昭和25(1950)年からは市区町村が徴収する税となりました。

昨今、温泉は観光などで行くことが多く、一泊数千円から数万円の宿に泊まることがほとんどなので、150円の税金には気づかない人も多いようです。が、旅館やホテルの領収明細をよく見てみると、入湯税の記載がされています。

近くに温泉があって毎日行く人や、長逗留して湯治するような人にとっては1日150円も負担になるかもしれません。ただ、そういう場合は減額されることが多いようです。

東京に泊まると課せられる「宿泊税」

入湯税と同様、観光客に課せられる税金として「宿泊税」があります。

宿泊税はその名の通り、ホテルや旅館に宿泊すると課せられる税金で、平成14(2002)年に東京都が初めて導入しました。税額は、宿泊費が1万円以上・1万5000円未満の場合に100円、1万5000円以上が200円です。1万円未満の場合は免税となります。

これらの対象となるのは、素泊まりの料金のみです。食事付きの場合は、食事代を引いた部分が課税対象となります。

この宿泊税を導入したのは、石原慎太郎元都知事でした。導入するときには反対もあり、当時の鳥取県知事から「東京都で開かれる会議には出席しない」と噛みつかれたこともありました。宿泊客が東京周辺の県、神奈川、埼玉、千葉に流れるのではないか、という懸念もされました。

が、1万円の宿泊費にかかるのがわずか100円であることから、旅行者としてはそう負担になるものではなく、現在ではすっかり定着しています。

ただしそのぶん税収も大したことはなく、令和3年度予算でわずか7億円に過ぎません。東京都の税収は5兆円以上ありますので、0.01%ちょっとにしかならないのです。

現在では東京にならって、大阪府、京都市、金沢市などもこの宿泊税を導入しています。どこの地域もそれほど大きな税収にはなっていませんが、少しでも税収を確保したいということなのでしょう。

ゴルフをするときにかかる「ゴルフ場利用税」

昨今では、若い人や女性にも人気があるゴルフ。バブル時代は接待のイメージが強かったのですが、最近では純粋にスポーツとして楽しむ人も増えているようです。

ゴルフ場を利用するときは、「ゴルフ場利用税」という税金がかかります。税額はゴルフ場によって違い、ゴルフ場の規模などで等級が定められています。一番低い8級では400円、一番高い1級では1200円といった具合です。

ゴルフ場利用税は、都道府県と市区町村の税金です。税収の配分は、都道府県が3割、市区町村が7割。税収は、年間総額で約500億円です。都道府県と市区町村にとっては大事な財源となっています。

ゴルフ場利用税がかかるのは、「18ホール以上あり、かつホールの平均距離が100メートル以上の施設及びホールの数が9ホール以上、かつホールの平均距離がだいたい150メートル以上の施設」ということになっています。狭くて9ホールしかないような、練習用として使われるゴルフ場などは課税の対象外なのです。

またゴルフ場利用税は、18歳未満や70歳以上の人には課せられません。

2022年現在、団塊の世代は73〜75 歳ぐらいです。この世代は若い頃ゴルフが大ブームになったので、免税となるのはありがたいかもしれません。

寺社の大反対でつぶれた京都の「古都保存協力税」

1980年代、京都はある税金のことで揺れていました。その税金が、「古都保存協力税」です。

古都保存協力税とは、京都市が文化財保護の財源として、市内40の寺社仏閣の参拝客に課した税金です。昭和60(1985)年に創設され、参拝客1人につき1回50円を寺社仏閣が徴収する仕組みになっていました。

古都保存協力税は、昭和57(1982)年に京都市から構想が打ち出されたのですが、これに対して市内の寺社仏閣が猛反発しました。

形式的には参拝者が負担する税金なので、寺社仏閣側の負担はありません。しかし、寺社仏閣が徴収するものなので、参拝者側としては寺社仏閣に支払うことになります。

参拝者の負担が増すと、お布施やお賽銭の額に影響するかもしれません。寺社仏閣側はそれを懸念したわけです。

「50円の徴収なんて、大したことはないのでは?」と、思う人も多いでしょう。しかし、それまで税金を払ってこなかった寺社仏閣側としては許せない問題でした。

寺社仏閣は、それまで「税金は免除されるのが当たり前」となっていました。お布施やお賽銭には原則として税金はかかりませんし、寺や神社の土地、建物の固定資産税も免除されています。

宗教施設には税金を払わなくていい特権のようなものがあり、寺社仏閣側はそれを侵されると感じたのかもしれません。なんと、この税金の導入をめぐって裁判沙汰にまでなっています。

対象の寺社仏閣が、「古都保存協力税は信教の自由を侵す」として、京都市を訴えたのです。この裁判では、「古都保存協力税は参拝者が負担するものであり、常識の範囲内なので信教の自由を侵さない」という判決が下りました。

が、寺社仏閣側の反発は非常に強く、拝観客の受け入れ停止などを行うところも現れました。京都市としても無理に続けるわけにはいかず、古都保存協力税はたった3年で廃税となっています。

池袋の「ワンルームマンション税」

豊島区はこれまで、人口問題に悩んでいました。

豊島区は、世帯の63%が単身という、異常な「独身者集中地域」です。そして30㎡未満の狭い住宅(ワンルームマンションなど)が、全体の住宅の40%を占めています(豊島区ホームページより)。いずれも、東京23区でトップクラスです。

狭い住宅が多いから単身者が多いのか、単身者が多いから狭い住宅が増えたのかはわかりません。とにかく、若い人は増えても子どもは増えず、外国人や学生など「いずれ出ていく人」ばかりが住む場所となっているのです。

「豊島区に定住する人を増やしたい。そのためには単身向け住宅を減らし、ファミリー向け住宅を増やさなくてはいけない」。そう考えた区は、2004年に「狭小住戸集合住宅税」、いわゆる「ワンルームマンション税」をつくります。納税義務者となるのは建築主です。課税の内容は、「30㎡未満の部屋を持つ集合住宅を建設した際に、1戸あたり50万円を課す」というものです。

8戸以下の集合住宅は免税となるため、アパートなどは免税となる可能性が高くなります。必然的に、ワンルームマンションが主な課税対象になるわけです。

しかし、人口動態はすぐには改善されなかったようです。

豊島区は2014年、国家戦略を検討する日本創成会議から、東京23区で唯一「消滅可能性都市」の認定を受け、「2040年に消滅する可能性がある」と指摘されました。

消滅可能性都市とは、少子高齢化の加速などにより、自治体として維持できないほどの人口減に見舞われる地域のことを指します。人口動態だけではなく、さまざまな条件を分析したうえで認定が行われました。

日本創成会議は、日本のシンクタンクである公益財団法人「日本生産性本部」によってつくられたものです。民間の団体ではありますが、公的な性質も有しています。そういう団体から消滅可能性都市の認定をされたことで、豊島区の関係者も相当のショックを受けたようです。

豊島区は、日本有数の繁華街・池袋を擁した東京の中枢区です。消滅可能性とはもっとも縁遠い場所だと見られていました。そのため日本創成会議からの認定は、かなり衝撃的なニュースとして取り上げられました。

それにしても池袋を擁する自治体が消滅可能性都市の認定を受けるとは、日本人としては非常に怖い気がしますね。日本の少子高齢化はここまで進んでしまったのか、と。

都市部の住民にだけ課せられる「都市計画税」とは?

都市部では、固定資産税に上乗せする形で「都市計画税」が課せられています。これは都市計画法で「市街化区域」(栄えている地域、今後整備が進められる地域)として定義された土地、建物などに課せられるものです。

都市計画税は使途に明確な目的を持つ「目的税」であり、税収は「公園・道路・下水道などの都市計画事業や土地区画整理事業に充てられる」ということになっています。

納税するのは土地や建物の所有者です。ただし賃貸の場合も家賃にこの税金が含まれるので、実質的には都市部のすべての住民は負担していることになります。

固定資産税の場合は、税率が1.4%に固定されており、自治体によるばらつきはあまりありません。一方で都市計画税は、各自治体によって税率などが異なります。

税率は0.3%が上限となっているのですが、0.3%までの範囲内で各自治体が自由に設定しています。

たとえば、東京23区の都市計画税の税率は0.3%ですが、隣接する千葉県松戸市の税率は0.23%。一方で、千葉県船橋市の税率は0.3%です。

船橋市と松戸市は同じ千葉県にあり、都心へのアクセス時間もあまり変わらないにもかかわらず、都市計画税の税率はかなり違うのです。そのせいもあってか、家賃相場は船橋市の方が松戸市よりも1万円程度高くなっています。

著者:大村大次郎

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