寝る力

 やっぱりこの人は違うなあ、と感じ入った言葉がある。米大リーグの大谷翔平選手は睡眠中に「何かいけそうだな、というのが出てくる」らしい。夢に見るのか、次の試合でやってみたいアイデアが、ふと浮かぶという▲活躍の秘訣(ひけつ)を聞かれて「まずは睡眠」と、この人はよく口にする。ハードな日程の合間にうまく睡眠を取り入れ、10時間以上は眠る日が多いらしい▲アイデアまでも浮かぶのだから、長時間、良質の睡眠を取る“寝る力”の人だろう。まねたわけではないにせよ、睡眠の大切さがいくらか見直されているように思える。ずっと減る傾向にあった日本人の睡眠時間が長くなっているという▲昨年秋、総務省が「生活時間の配分」を5年ぶりに調べたところ、一日の睡眠時間は平均7時間54分。前回よりも14分増えた▲他国に比べ、日本人は際立って睡眠時間が短いとされる。調査では、5年前よりもくつろぎの時間が増え、仕事の時間は減った。生活のありようが変わり、定着するのかどうか▲詩人の杉山平一さんに「眠り」と題する一編がある。〈眠りへ/エスカレーターを降りてゆく/たのしい地下室/おれだけの部屋〉。秋の夜長、夜更かしも楽しいが、スーッと眠りの地下室に降りるのもまた楽しい。“大谷式”を学ぶのに、もってこいの季節になった。(徹)

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