<書評>『詩集 連音』 ウチナーグチの魂練り込む

 タイトルの「連音」とは著者の造語で、意味を持たない音を連ねたものとのこと。

 《はるるる るんるん/はるるんるん/ひるらん へるらん へるるんるん》(「人間の生存」)

 右のような文字の羅列を詩として解読しようとしても無理がある。こうも大胆な手法は、言葉を伝達の手段とのみ考える言語論者を困惑させる。ただ、歌謡曲などでも意味のない「ああ~」などで歌詞を補足したりしている。由紀さおりの「夜明けのスキャット」などは「ルールールルルー」といった「スキャット」だけでほぼ成り立っていて、それが爆発的な人気を呼んで、歌謡界に衝撃を与えた。

 著者の「連音」もこれらと類似しているかに見える。だが、著者の斬新さとすごさは、連音にウチナーグチとそのリズムと響きを持ち込んできたことである。マイナー言語としてのウチナーグチのリズムと魂を標準語に練り込んで、詩の世界に乱入したのである。エイサー祭の場で勇壮に太鼓をたたき、三線をかき鳴らして歌・踊りを繰り広げる折、絶妙のタイミングで「エイサーエイサー、ヒヤルガエイサー」と囃子(はやし)詞(ことば)が入り、場を一気に盛り上げる。

 また、著者の詩には「アンヤタン」と懐かしさを呼び込む風景が湧いてくるのがあり、読む人の心をほっこりさせる。

 《私が幼少のころの集落には歩くと/ナサキやらギリやらオーエーやらが落ちていた》(「生まれてくるモノのイリュージョン」)

 ここには著者の生まれ育った集落の原風景がある。また、鋭い社会批判があり、沖縄人(びと)への痛烈な皮肉があり、人間存在への根源的審問がある。連音は多様にして変幻自在なのである。

 《なんと人間は目出度いイチムシであることか/ワタクシはヒージャーの首を掴んで/血管の熱い脈動を感じ 震え/オトーが包丁を入れると/真っ赤な血が躍り出た》(「残酷のウタ」)

 著者が本著書に込めた思いは明白である。《感性まで日本化されると沖縄はどうなっていくのだろう。骨抜き、まさにそれが進行中である》

(平敷武蕉・文芸評論家)
 うえはら・きぜん 1943年糸満市生まれ。詩風「サンサンサン」で第15回山之口貘賞受賞。著書に詩集「燃える緑」、新選・沖縄現代詩文庫(8)「上原紀善詩集」など。

© 株式会社琉球新報社