無罪主張の3教諭は何を語ったのか 那須雪崩事故初公判ドキュメント 「血が沸き立つ」と遺族は怒り【WEB限定】

2017年3月、高校生らが雪崩に巻き込まれた栃木県那須町の事故現場

 登山講習会中だった栃木県立大田原高の高校生ら8人が亡くなった那須雪崩事故。男性教諭3人が業務上過失致死傷罪に問われ、25日午後、宇都宮地裁で初公判が開かれた。被告となった教諭が何を語り、愛する息子たちを失った遺族はどう受け止めたのか。初公判の様子を報告する。

 事故は2017年3月27日、那須町のスキー場周辺で起きた。登山講習で深雪歩行をしていた大田原高山岳部の生徒7人と教諭1人が雪崩に巻き込まれ、亡くなった。

 あれから約5年7カ月。冷たい北風が吹き抜ける裁判所の駐車場に、人だかりができていた。初公判の傍聴が目的で、次々に整理券を受け取った。抽選の結果、50人に一般傍聴席の傍聴券が交付された。

 午後1時20分、傍聴者で満席となった地裁206号法廷。被害者参加人として出席する遺族たちが、検察官らの後方の席にそれぞれ着席した。

 マスコミによる廷内撮影に続き、スーツ姿の被告3人が入廷した。裁判官や遺族の方に向かって何度か頭を下げ、弁護士の前の被告人席に座った。神妙な面持ちでうつむき、にぎりこぶしを膝に置く3人。遺族たちはその姿をじっとみつめた。

 午後1時半、開廷。裁判長に促され、被告3人が証言台に立ち、氏名や生年月日、住所などを尋ねる人定質問が始まった。職業を尋ねられ、3人は「教員」「高等学校教員」などと答えた。

 被告3人は当時の栃木県高校体育連盟(高体連)の登山専門部専門委員長だった男性教諭(56)、副委員長で犠牲者8人がいた班を引率していた男性教諭(53)、後続の班を引率していた男性教諭(59)。

 続いて始まったのは、検察官による起訴状朗読。

 起訴状によると、3人は雪崩事故の発生が容易に予想されたのに、情報収集や安全な訓練区域の設定を行わず、漫然と深雪歩行訓練を行い、雪崩で生徒7人と教諭1人を死亡させ、生徒5人にけがをさせた、としている。

 裁判長が黙秘権などについて説明した上で、ひとりずつ起訴内容の認否を尋ねた。登山専門部専門委員長だった被告が最初の証言台に立った。

 裁判長「あなたについて、検察官は過失の責任があると言っているが、どうですか」

 被告は少し沈黙し、「まず始めに今回の事故で亡くなった生徒たちと同僚の先生、ご遺族、けがをした生徒と先生、ご家族に改めておわび申し上げます。すみませんでした」。遺族の方に向き直り、深々と頭を下げた。

 認否については、「詳しいことは弁護士に述べてもらいますが、内容としては無罪を主張します」と話した。

 裁判長は被告に対し、起訴状の事実関係を一つずつ確認した。「雪崩が起きるとは思っていなかった」などと答える被告。遺族は被告の受け答えを聞きながら、ノートにペンを走らせた。

 続いて証言台に立ったのは、8人が亡くなった班を引率した被告。「まず始めに一言だけ、今回の…」と話し始めると、検察官から「罪状認否は、謝罪をする場所ではない」と制止された。裁判長が認否を尋ねると、「無罪を主張します」と答えた。

 後続の班を引率した被告が最後の証言台に立ち、「細かい部分は弁護士に述べてもらいますが、無罪を主張します」と話した。

 席にいた記者たちが「被告3人が否認」の速報を伝えるため、慌ただしく法廷を後にした。

 被告の弁護士も「3人はいずれも無罪である」と主張。認否に続き、検察官が事件のストーリーを示す冒頭陳述が始まった。

 3人の身上経歴が読み上げられ、事故当日の雪崩の危険性や雪崩発生の状況などを説明した。遺族は、読み上げられた亡き息子たちの名前をじっと聞いた。

 20分の休廷を挟み、裁判が再開したのは午後4時20分ごろ。採用された証拠の取り調べに入り、検察官がスライドを大画面に映しながら、事故の全体像などを説明した。事故直前に撮影された訓練中の写真や、上空から事故現場周辺を撮影したドローンの映像などが示されると、遺族が目をこらした。

 この日の審理はここで終了した。第2回公判は12月20日で、弁護側の冒頭陳述が行われる予定。

 閉廷後、裁判所近くの空き地で遺族の1人が記者たちの質問に答えた。初公判を振り返り、「被告から謝罪があったので、起訴内容を認めるのかと一瞬思ったが、否認だった。感情を逆なでするようで、血が沸き立つぐらいの怒りがわいてきた」と抑えきれない様子だった。

傍聴希望者が集まった宇都宮地裁駐車場
那須雪崩事故で3教諭の初公判が開かれた宇都宮地裁206号法廷=25日午後1時20分、宇都宮市小幡1丁目(代表撮影)
那須雪崩事故の初公判を終え、報道陣の取材に応じる遺族=25日午後6時30分、宇都宮市小幡1丁目

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