攻守にイケイケ、ロアッソ熊本!大木武監督の「可変式3-3-1-3」でプレーオフからJ1初昇格に挑む。

激闘が続いた明治安田生命J2リーグは、10月23日の最終節をもって今季リーグ戦の全日程が終了。順位の確定およびJ1参入プレーオフに進出する4クラブが出揃った。

ファジアーノ岡山(3位)、ロアッソ熊本(4位)、大分トリニータ(5位)、モンテディオ山形(6位)の4クラブのうち、もっともインパクトがあるのは、昨季をJ3で戦っていた熊本だろう。攻守一体のスタイルを構築した大木武監督のもと、アグレッシブな振る舞いで4年ぶりとなるJ2を堂々と戦い抜いた。

当コラムでは、クラブ史上初めてJ1参入プレーオフを戦う熊本を特集し、独自のシステムおよびコンセプトやチームを支えるキーマン、そしてプレーオフを勝ち抜くうえでの重要ポイントを述べていきたい。

直近5試合の基本システム

まずは、直近リーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神は経験豊富なベテランの佐藤優也で、最終ラインは右から強烈ミドルも持ち合わせる黒木晃平、リベロの位置でDFラインを統率する菅田真啓、攻守両面での貢献が光るイヨハ理ヘンリーという不動の3バック。

アンカーは絶対的司令塔にしてキャプテンの河原創が務め、インサイドハーフは右がサッカーIQの高さを活かし潤滑油として機能する三島頌平、左はトップ下およびCFでも起用される竹本雄飛で、藤田一途と田辺圭佑が途中出場から推進力をもたらす。

トップ下は8月にFC東京より加入した平川怜が定位置をつかみ、インサイドハーフと兼務する竹本と熟練のテクニシャンである伊東俊らが控える。

3トップのウィングは右がカットインからチャンスメイクする杉山直宏、左は大学を経て地元へ帰還した坂本亘基がファーストチョイスで、馬力あるドリブルが武器のターレスとCFもこなす粟飯原尚平も存在感を示す。

CFはエースとして君臨する髙橋利樹と土信田悠生がポジションを争い、マルチロールの竹本と粟飯原も起用されている。

攻守一体のスタイルで旋風を巻き起こす

上記の通り、ウィングバックを置かない中盤ダイヤモンド型の3-4-3(3-3-1-3)が採用されているロアッソ熊本。一般的ではない珍しいシステムで独自のスタイルを構築しているのが、様々なカテゴリーで豊富な指導歴を誇る大木武監督だ。

大木監督といえば、ポゼッションを重視した攻撃的スタイルを標榜していることで知られる。FC岐阜時代には最終ラインから徹底してパスをつなぎまくる異色のサッカーで注目を集めていたが、自身3年ぶりに挑んだJ2の舞台では攻守に一体感のあるスタイルで旋風を巻き起こしている。

攻撃時は3-3-1-3の形でボールを保持し、3バック&アンカーのビルドアップを中心としたリズミカルかつ流動的なパスワークで相手を翻弄。中盤ダイヤモンド型の3-4-3はトライアングルが作りやすいためボールを回しやすく、選手間の距離が近いぶんボール保持者へのサポートも手厚くなる。

また、距離が近いことによりボールロスト後のプレスもかけやすく、奪われた後のアグレッシブなハードプレスも特長となっている。

なお、即時奪回およびハイプレスが難しい場合は5-3-1-1へ可変し(下図参照)、両インサイドハーフが最終ラインへと吸収されて5バックを形成。両ウィングが中盤まで下がってブロックを作り、コンパクトに守る。

また、ピッチ上から見て取れるのは、“前への意識”だ。3バック&アンカーは流動的なパスワークの基盤となるビルドアップだけではなく、相手DF裏のスペースを狙ったフィードや球足が速い縦パスも織り交ぜていく。

加えて3バックの両ストッパーはオーバーラップで攻撃に厚みをもたらす役目も果たしており、第38節のジェフユナイテッド千葉戦では右CBの黒木晃平が勢いある攻め上がりでスペースを突き、左足ミドル弾を沈めてウノゼロ勝利の立役者となった。

7月度および9月度の月間優秀監督賞に輝いた大木監督の手腕に疑いの余地はなく、サインプレーを用いて創意工夫に富んだセットプレーをデザインする髙橋泰コーチらコーチ陣の働きぶりも素晴らしい。

攻守に明確なコンセプトを打ち出して拠り所が生まれたことが、躍進の要因として挙げられるだろう。

指揮官が重用するキーマンたち

独自のスタイルを貫く大木武監督が重用しているのが、アンカーの河原創だ。昨季に引き続き、今季もリーグ戦フルタイム出場を果たした背番号6はチームに欠かせない攻守の柱。正確なパスでリズムを作り、定評があるプレースキックで決定機を演出する。

機を見た攻撃参加も効果的で、1試合平均敵陣パス数およびアシスト数は41節終了時点でリーグトップの数値。バランス感覚にも優れており、今後経験を積んでいけば、ゆくゆくは浦和レッズで活躍する岩尾憲のような名バランサーへと成長しそうだ。

前線に目を移すと、右サイドでチャンスメイクする杉山直宏と得点源としてけん引する髙橋利樹が輝きを放つ。

リーグ屈指のドリブラーである杉山は、パンチ力のある左足が最大の武器で、特にカットインからのシュートとインスイングのクロスは絶品。巧みな連係プレーで崩し、最後は杉山の精密な左足ミドルでこじ開けた第28節・ツエーゲン金沢戦でのゴラッソは、7月度のJ2月間ベストゴールに選ばれている。

正確な左足はプレースキックでも活かされており、右利きの河原とは異なる球筋でセットプレーをデザインすることが可能。チームの引き出しとしてもプラスとなっている。

そして、杉山とともに攻撃をリードする髙橋は、チームトップのリーグ戦14ゴールをマークした屈強な本格派CFだ。裏への抜け出しなど機動力もあり、しなやかな身のこなしとポストプレー、前線からの積極的なプレスが光る。

今季記録したリーグ戦14得点を振り返ると、もっとも多いのが利き足である右足でのゴール(計8得点/PK含む)で、ヘディングでのゴール(計5得点)が次点。得点パターンを見ると、味方のクロスに合わせて決める形が半数を占めた。

エリア内での勝負強さが群を抜く“生粋の9番”は、コンディションが万全であれば、J1参入プレーオフでの活躍にも期待がかかる。

勢いを持ってプレーオフを勝ち抜け!

今季のリーグ戦を4位で終え、見事J1参入プレーオフ進出を決めたロアッソ熊本。1回戦の相手は5位・大分トリニータに決まり、10月30日、熊本の本拠地・えがお健康スタジアムでの“決戦”に臨む。

3年ぶりに開催されるJ1参入プレーオフは、J2から3位・ファジアーノ岡山、熊本、大分、6位・モンテディオ山形が参戦(J1クラブは原稿執筆時点で未定)。J2クラブ同士で1回戦と2回戦が行われ、その勝者がJ1の16位クラブとの決定戦に臨む。

1回戦と2回戦は「90分で勝敗が決しない場合は、リーグ戦年間順位が上位のクラブを勝者とする」という規定があり、このレギュレーションを意識した試合展開が予想される。

熊本が1回戦で戦う大分は、ポゼッションとカウンターを高次元で使い分ける好チームだ。年間順位で上回る熊本としては、引き分けでも2回戦へ進出できるだけに、その優位性を活かした試合運びが求められる。

今季リーグ戦は1勝1敗の五分であり、一発勝負も相まって緊張感あふれる試合となりそうだ。経験値で勝るアウェイチームを相手に、受け身にならず積極的に振る舞えるかがカギを握る。

2回戦に進出した場合は、岡山または山形の勝者と対戦する。どちらが勝ち上がるかによって、ゲームプランは異なるものとなるだろう。対岡山では引き分け以下で敗退が決まってしまい、対山形では引き分けでもオーケーとなる。

手堅い試合運びが売りの岡山、目下勢いのある山形。どちらもタフな相手であることは間違いない。

特に山形は前回のプレーオフでも6位から参戦し、1回戦を突破。2回戦で敗れ決定戦進出を果たせなかった雪辱を期す。大逆転でプレーオフ進出を決めた勢いは不気味なだけに、対戦時は持ち味のアグレッシブさと地の利を生かして勢いよく試合に入りたいところだ。

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決定戦を含め総じて堅い試合展開が予想されるJ1参入プレーオフを制するには、レギュレーションを意識しつつも、いかに普段通り戦えるかが重要となる。

クラブ史上初となるプレーオフで勇敢に、勢いを持って戦い抜くことができれば、ロアッソ熊本が歴史の新たな扉を開くことになるかもしれない。

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