<社説>軍港の移設形状了承 移設なし、なお模索を

 米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添西海岸移設に関し、防衛省が示していた「T字型」埋め立て案について県や那覇、浦添両市など関係機関が了承した。大きな転換点となるが、機能は拡充されないのかなど、移設を巡ってはさまざまな疑問がある。 そもそも基地負担の軽減を図る目的であるのだから、本来は移設なき返還がベストだ。状況の変化を見極め、無条件かつ早期の全面返還を模索し続ける必要がある。

 那覇軍港は1974年、移設条件付きで全面返還が決まった。48年前のことである。艦船寄港は減少傾向で、2002年には1987年の3分の1程度(35隻)まで減った。03年以降、公表されなくなったのは遊休化しているからとの指摘もある。

 隣接して有用性が高まると見込まれた牧港補給地区は25年度以降に返還されることが決まっている。条件だった移設の必要性の土台が崩れかかっている。

 形状案の了解について国、県、那覇、浦添両市は移設後も「現有機能の維持」にとどめることを条件としている。ただ、現有機能の定義が国とは異なっている。国が抑制的でないのであれば、機能が拡大されないとの条件は担保されないのではないかと考えざるを得ない。

 現在、ヘリコプターやオスプレイが飛来することがある。県は航空機の運用が伴う訓練は従来、那覇軍港で確認されていなかったとして、一切実施しないよう求めている。基地の使用目的などを定めた日米合意(5.15メモ)に沿っていないからだ。

 これに対して防衛省は航空機の訓練も軍港の「使用主目的に沿ったもの」と主張している。認識の違いを埋め、オスプレイなどの飛来がないようにするとの確認を行うべきだ。そうでもしなければ、米軍の都合を最優先した運用がまかり通ってしまうことは、これまでの県内での米軍の運用実態を見れば明らかである。

 そもそも移設条件付きであることが、基地負担の軽減からは外れている。選挙で移設反対の民意が示されたこともあった。浦添西海岸には豊かな自然環境が広がっている。環境への影響を懸念し、移設に反対する声も根強い。

 基地の整理縮小が狙いであったはずの日米特別行動委員会(SACO)合意の本質は負担軽減ではなく県内移設による機能強化にある。施設返還をするが、県内に新造設置するということが市民、県民を二分し、行政を翻弄(ほんろう)してきた。日米両政府の臆面もない無理強いは地方自治をゆがめている。

 完成までに17年を要するとされ、移設実現の見通しは2030年代末以降とも目される。こうした計画に多額の税金を投じることが国民の理解を得られるのか。国は現在の使用実績、必要経費など全てを開示し説明すべきだ。

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