クイーン『The Miracle』発売当時の想い出と未発表の新曲「Face It Alone」

Photography by Richard Young

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第65回。

今回は2022年11月18日に未発表の新曲「Face It Alone」や、この曲を含む未発表音源やインタビューが収録されたボックスセットが発売となる『The Miracle』について振り返って頂きました。

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『The Miracle』発売当時

1986年、『A Kind Of Magic』をリリースし、ヨーロッパで大規模なツアーを行ったクイーン。当時は、これがラスト・ツアーになるとは思ってもいなかったので、次のクイーンは?と希望に溢れていました。

そしてその3年後、彼らは『The Miracle』を発表しました。オープニングの「Party」から、アグレッシブなロック。フレディの歌声も力強く、このアルバムで、クイーンはまだまだ走り続けていくバンドであることを証明したと思っていました。ところが、アルバムに伴うツアーは行わないと驚きの宣言。あれっ、何かがおかしい、どうしてなのだろうか、と気を揉んだ80年代の終わりでした。

アルバムからは、「I Want It All」「Breakthru」「The Invisible Man」「The Miracle」といった名曲が生まれ、アルバムは、イギリス、ドイツ、スイス、オーストリア、オランダで1位となっています。なかでも、「I Want It All」は、ライヴ感溢れる作品。フレディの生声で聴きたかったという思いがありました。

追悼コンサートでは、ロジャー・ダルトリーがヴォーカルを披露しましたが、そのサウンドがウェンブリー・スタジアムに響いた時、フレディだったら、どんな姿でこの歌を歌うのだろうか、とキュンとする思いで聴いていました。アダム・ランバートを迎えてのクイーンが、ツアーでこの曲を披露した時も、やはりセンチメンタルな気持ちになったものです。「あ〜、フレディで聴きたい」と。

1989年に発売されたストレートなロック

フレディ生前の後期の作品の中でも、ハード・ロック・サウンドにフォーカスされた『The Miracle』は、今の時代に聴いてもインパクトを残すことができる作品です。アルバムがリリースされた1989年のイギリスの音楽シーンは、アシッド・ハウス・ムーヴメントの真っ只中。幻想的なエレクトロ・ミュージックは、クラブ・シーンだけでなく、メインストリームで主流となっていました。そんな中で、これだけストレートなロック・ミュージックを世の中に送ったクイーンの音楽に対する姿勢、そしてフレディの歌声に改めて驚かされるのです。

この時期のフレディは、すでにHIV感染がわかり、メンバーにも伝えていたということですが、アルバム発売の1年前、ソロ・アルバム『Barcelona』のリリース記者会見で会った時のフレディは、堂々とした姿で現れ、病とは無縁のように見えました。『The Miracle』の制作にも入っていた時期でもあるので、今後のクイーンとしての活動にも積極的に立ち向かおうとしていたことが、前向きな姿として見えたのでしょう。

未発表の新曲「Face It Alone」

『The Miracle』のレコーディングでは30曲を制作し、収録されなかった楽曲は、その後の『Innuendo』『Made In Heaven』に収録されることになりましたが、そっとなりを潜めていたお宝が、この度リリースされました。『The Miracle』のボックス・セット発売にあたり、当時のセッションを探していたところ、「Face It Alone」として発売される楽曲が見つかったのです。

100%完成された状態ではなかったはずのこの曲を、宝の発見として、ブライアンとロジャーの元でチームが作品として仕上げていきました。もちろんジョン・ディーコンのベースも入っています。もうそれだけで、ファンにとっては十分な贈り物。「Face It Alone」の悲しい響きは、アルバム『The Miracle』のロックの方向性から外れたことは理解できますが、歌詞を通して、人生、現実に向き合う、フレディの魂の叫びが伝わってくる歌声は、涙無くしては聴けません。

間もなく、31回目の命日がやってきます。この歌が、苦しみの中で生まれた作品ではあるけれど、突然届けられた贈り物として、ファンにとっては大切にしたい楽曲となっていくことでしょう。

Written By 今泉圭姫子

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クイーン『The Miracle Collector’s Edition』
2022年11月18日発売

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