新規顧客の開拓は非効率?「買ってもらってからが始まり」の営業戦略とは

少子高齢化でお客様は減り、さらに物価高で財布のひもは固くなる……消費の傾向が大きく変わっる中、営業活動を成果につなげるには、どうすればよいのでしょうか?

そこで、営業コンサルタント・和田裕美( @wadahiromi )氏の著書『ファンに愛され、売れ続ける秘訣』(かんき出版)より、一部を抜粋・編集して営業スタイルの変化について解説します。


成約率98%の3つのステージが入れ替わる

今までの「セールス活動」はアポイントをとってプレゼンして契約を取るという流れがメインだったから当然です。そもそも過酷なノルマを抱えた営業にとって購入されたお客さまを丁寧にフォローする時間などなかったと思います。そこで、今までのセールスからどこに比重を置き換えたらいいのかを説明していきますね。

通常、営業活動にはさまざまな流れがあります。

私の営業スタイルは、まず営業の流れを第1ステージ、第2ステージ、第3ステージと分けています。

営業基本動作

第1ステージは『探す』

誰に売るのか? セールスの現場では「ペルソナ」(サービスや商品の典型的なユーザー像)を明確にしてその人の行動パターンや購買動機などを想定したりします。そして広告を出したり個人の方ならSNSで発信したりリストにアプローチをするなどして集客活動をする。とにかく、お客さまに会うまでのすべての活動がここに入ります。言うまでもなく一番手間がかかるのがこの第1ステージです。

声をかける行動量によって大きく左右される営業などは、このステージで大半の時間を費やします。

第2ステージは『説明する』

対面の場合はこのステージがプレゼンテーションと契約までの流れとなります。

直接話を聞き、相手に質問をしながら、第1ステージでは「仮」として想定していたペルソナやニーズをより具体的にはっきりとした輪郭にしていきます。そうすることで相手の現状やニーズを把握し、より相手が欲しい未来をプレゼンテーションしていきます。価格以上に価値があることが伝わったところで、クロージングをして背中を押します。この第1ステージは『探す』第2ステージは『説明する』ステージでは契約を取った後に「バトンナップ」という、もう1つのプレゼンテーションをして懸念している不安を取り除きます。

第3ステージは『フォローする』

ご購入後のアフターフォローで人間関係を構築するのが、この第3ステージです。ご契約後に直接お会いしたり、メールやLINEなどで事務的な会話以外のコミュニケーションをとったり、イベントなどを企画してお客さま同士のコミュニティをつくることなど、ご縁を深めるための「フォロー」をします。

通常は、この第3ステージはまた買ってもらう、あるいは他のお客さまを紹介してもらうことが目的だと考えがちですが、それ以上に、お客さまにもっともっと商品のファンになってもらい幸せな気持ちになってもらうことを優先します。

さて、この3つのステージの中で多くの営業が一番時間を取られるのが第1ステージです。その上「動けば動くほど断られる」ということもあり、メンタルがやられてここで脱落してやめていく人が多くいます。

それなのにこの一番厳しい第1ステージをクリアしないと次のステージには行けませんでした。

もちろん、第1ステージが今後もなくなることはありません。

ただ、多くの営業がこの第1ステージに80%の時間を投下しているのはあまりにも効率が悪いと思いませんか? 逆にほとんど手付かずだった第3ステージにもっと時間をかけてみたらどうなるでしょうか?

もちろん「すぐにここから契約が取れる」という期待はできないかもしれませんが、きちんとフォローして関係性を築いていくことができればお客さまが商品(あるいは営業)の「ファン」になってくださいます。 そしてリピート購入が生まれるのです。それ以上にツイッターなどのSNSで発信してくれたり友だちに紹介してくれたりします。楽しい気持ち、嬉しい気持ちが連鎖していくのです。

つまり、これは新規顧客を追いかける苦しい第1ステージの時間が減っていくことを意味します。この第3ステージは笑顔だらけの楽園ステージなのです。

ただし、注意点があります。企業の利益や自分の営業成績を上げるためだけにこの第3ステージを活用しようと目論むのはダメ。「え、結局は売上のためにやるのだから当たり前でしょう」と言われそうですが、そういう「思い」は相手に伝わってしまう。決してファンづくりにつながりません。

あなたのためではなく〝相手のために〟このステージがあるのです。

ファンに愛される営業では比重が変わる

「買ってもらってからが始まり」今までは「売ったら終わり」

Amazon で買い物をすると、その傾向から「あなたのおすすめはこれ」という表示がでますね。また、私が利用しているファッションサイトでは「こんなコーディネートもできます」というお知らせが来ます。今の時代、このような機能的な「フォロー」は積極的に日常の中に入ってきています。ECショップで買い物をして送られてくるメルマガもたいていの場合は「これもどうですか?」「今、ポイント2倍です」と次の「売り」が目的で、お得な情報と言えば「セール情報」となってしまう。私は買い物が好きなので、ついつい釣られて買ってしまうこともありますが、毎回「売り、売り、売り」という案内が続くとメールマガジンも開封するのが嫌になってしまいます。

このように「フォロー」と言っても「売りのフォロー」と、「関係構築のフォロー」に分かれてくるのです。もちろんファンづくりに必要なのは後者となります。

私が初めて株を買ったのは20代の時でした。ある証券会社の営業の方を紹介してもらってよくわからないまま言われた商品を素直に購入したんです。けれど、その株はどんどん下がり、営業の方は1年後にいなくなり、私は誰に相談していいのか、何を聞いたらいいのかもわからなくなりました。だから、私は損をしたままですが、その契約を解約しました。自分も勉強不足だったことも否めないのですが、もしあの時きちんとフォローがあれば今も口座を持っていたかもしれないし、営業の人から興味が湧くようなアドバイスを受けていたら、もしかしたら今頃、ビルを3棟くらい所有する資産家になっていたかもしれないのです(その逆もありますが……)。担当してくれる人によって未来がこんなふうに変わるんだと思うと営業選びってとっても重要です。

同じように、今まで多くの営業の人に関わってきましたが会社側から営業の人に「フォローをしろ」という指示はほとんどなく営業が契約を取ってきたら顧客リストに載せて、あとは本社がケア。ケアといってもたまにダイレクトメールを送るぐらいしかしていない。実際にお客さまと向き合った営業は次の新規獲得を目指さないといけないので、1つひとつの契約なんか覚えていないことがほとんどでした。

でも、お客さま心理から考えていくと、一生懸命説明してくれた営業の人が、契約になった瞬間に消えるのって、寂しいですよね? これぞ「釣った魚には餌をやらない営業」です。渇きますよね、心が。

おそらくあらゆる業界で、関係性の構築のフォローをしていれば未来の売上があったはずだと私は思っています。 未来の売上が、フォローをしなかったせいで消滅しているのです。

こんな恐ろしいことが起こっているにもかかわらず、「新規をとれー!」と激を飛ばしている営業部長がいるとしたら「あなたのせいで大事な未来のお客さまを失っていますよ」と耳元で囁いてあげたいです。それでも「目先の売上が大事なんだ。お前は何を言ってんだ!」と逆ギレされたら「ごめんなさい、絶滅危惧種に認定しますよ」と言ってあげたい(どうか生き残って欲しいという思いやりを込めて)。

こんな慣習を変えていくためには認識を変える必要があります。

自分の視点から、お客さまの視点に変えていくのです。売ったら終わりが営業の視点ならば、買ったところからが始まりが、お客さまの視点です。

つまり「営業のゴール=お客さまのスタート」なのです。

もちろん、私も営業をやってきたので、営業がアポ取りからプレゼンと契約まで長い道のりがあったこともよくわかるし、たくさんの人に断られて、いくつも山を超えてきたのですから、「やれやれやっと契約になった」という達成感でいっぱいの気持ちになってしまうのもよく理解できます。

ですが、ここからが第3ステージなのです。お客さまのスタートに伴走してあげることがきっと大きな喜びになって返ってきます。

著者:和田 裕美/監修:佐藤 尚之

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