中森明菜のリミックス「Regeneration」これって90年代のフューチャーファンク?  明菜のリミックス作品が “レコードの日” に合わせて登場!

中森明菜リミックスアルバム「Regeneration」

中森明菜、デビュー40周年企画として、1998年にリリースされたアルバムを『Regeneration - 中森明菜 re-mix - 2LP(Color Vinyl)』と、バラッド曲を中心に選曲された『Regeneration - 中森明菜 re-mix 2 - 2LP(Color Vinyl)』とでアナログ化。それが2022年11月3日の「レコードの日」に2タイトル同時リリースされた。リミックスを担当したのは、グラミー賞のアレンジ部門に日本人としてノミネートされたこともある古川貴司氏。

この企画アルバムがリリースされた1998年に時計の針を戻そう。

この年は前年1997年12月に日本で劇場公開された映画『タイタニック』が年をまたいで超特大ヒット。邦画も『踊る大捜査線 THE MOVIE』が超特大ヒットした年。音楽シーンに目を向けてみると、シングルはGLAY「誘惑」、SMAP「夜空ノムコウ」などがヒット。そしてなんと1位〜14位までがミリオンセラー!

アルバムではB’zのベストアルバムが1位と2位を独占! アルバム部門もミリオンセラーを連発と、エンターテインメント業界は活気に満ちていた。

そうした状況の中、新たな新星が生まれた。「つつみ込むように…」でデビューしたMISIAだ。彼女はクラブシーンから火が付いた。ここで流れていたのが彼女の “リミックス” だった。

リミックス―― 複数の既存曲を編集して新たな楽曲を生み出す手法の一つ。海外のアーティストはアルバムの楽曲からシングルカットし、その曲をリミックスし、クラブシーンからヒットをもたらすプロモーションを行っている。

1998年だと、マドンナがアルバム『レイ・オブ・ライト』からシングルカットした「フローズン」をExtended Club Mixとしてリリース。また同様に、ホイットニー・ ヒューストンがアルバム『マイ・ラヴ・イズ・ユア・ラヴ』から「イッツ・ノット・ライト・バット・イッツ・オーケイ」のThunderpuss Club Mixを出すなど、人気の “ハウス” のミキシングを得意とする音楽プロデューサーやDJを起用していた。

当時の私はそれらの音に惹かれ、よくゲイクラブイベントに出かけ、朝まで踊りちぎっていたことを思い出す。

そうしたクラブシーン人気の波に乗ってか、中山美穂や小泉今日子など80年代アイドルたちもまたリミックスアルバムを次々とリリースしている。

オリジナルバージョンとは異なった明菜の魅力を再発見

そして我らの歌姫、中森明菜も遂にリミックスアルバムをリリースすることとなった。アルバムタイトルは『Regeneration』。再生、新生などの意味を持つ。リミックスアルバムではあるが、制作陣は新たなもう一つの中森明菜を伝えたいのだと思った。

この作品のリリース時は私自身、まだレコード会社に入社していなかったので純粋に「明菜の新譜だ!」と喜んでいた。それもリミックスアルバムで、僕のテーマソングだと勝手に思っている「最後のカルメン」から始まるではないか!「なんてことだ! きっとかっこいいハウス仕様に楽曲が生まれ変わっているだろうな〜」と妄想は果てしなかった。帰宅して封を開け、CDプレイヤーにセットし、再生ボタンをポン。

初めて聴いた時は、ハウスミュージックではなかったので物足りなさを感じたが、何度も聴くと完全にハマった! オリジナル楽曲とは全く別ものとして聴くと、これが良き作品なのだ! 明菜の歌声を身近に感じたり、明菜の歌の上手さがより際立っているではないか! 声量がクッキリ・ハッキリ感じられる!

今回はこの2作品のリミックスアルバムから、オリジナルバージョンとは異なる “中森明菜” を再発見できた楽曲をセレクトし、その魅力をお伝えしたい。

原曲の切なさをそのまま残し恋の終わりを淡々と歌う「難破船」

まずは『Regeneration - 中森明菜 re-mix -』から。

#1:最後のカルメンシングルバージョンは激しく情熱的なフラメンコな世界観を演出している。カスタネットが鳴り、激しく舞う明菜が居るのだが、リミックスアルバムでは打って変わり、ムーディな落ち着いた世界観に生まれ変わる。クラブでしっとりと舞う明菜が居るのだ。作詞は麻生圭子。

 狂ってこそ恋だわ
 黒髪に赤いバラ
 あなたの罪は私を愛したことね

―― しかし、このような歌詞に代表されるようなアツい情熱的な雰囲気は消えていない。

#3:ミ・アモーレ第27回日本レコード大賞受賞曲。ラテンフュージョン界の大御所、松岡直也提供作品。本格的なサンバのリズムが特徴的なナンバーが、リミックスアルバムではハウスミュージックの要素を散りばめた作品になっている。

一般的にハウスミュージックと呼ばれているものは「4つ打ち」が基本。この作品の『ミ・アモーレ』はクラブで踊るにはもってこいの楽曲になっているのだ。

#4:TATTOO続いては、打ち込みビッグバンドジャズにプラス、ジャングルビートが混ざり合う疾走感のあるナンバー。オリジナルでは今聴いても『ザ・ベストテン』などの舞台演出でキャバレーをイメージしたセットに、ボディ・コンシャスのタイトなミニスカートの衣裳をまとい、男性トランぺッターを従えて歌う明菜を思い出す。しかし、『Regeneration-中森明菜 re-mix-』の「TATTOO」はどのようになっているのか…。

ジャジーなサウンドをベースにゆったりと音が流れていく。この作品の「TATTOO」の明菜は映画『バットマン』シリーズの舞台であるゴッサム・シティの中を、怪しく、妖艶にキャットウォークする ”キャットウーマン明菜” が見えた。

#6:難破船1987年9月30日にリリースされた中森明菜の19枚目のシングル。シングルとしては初のカバー。原曲は加藤登紀子が手がけたドラマティックで重厚なバラード。加藤さんが描く壮大な世界とはまた違う世界観で格調高く悲劇的に切々と歌う明菜の「難破船」は、“真冬の夜の海” というイメージ。

リミックスアルバムでは原曲の切なさをそのまま残しミディアムテンポに。舞台はビルが立ち並ぶ夜の都会で恋の終わりを淡々と歌う明菜の「難破船」に生まれ変わっている。

オリジナルがしっかりしているからこそ成立するリミックスアルバム

続いて『Regeneration - 中森明菜 re-mix 2』をみていこう。

#1:二人静「天河伝説殺人事件」より「きっと、愛しすぎたから…」

―― からはじまる1991年3月25日にリリースされた中森明菜26枚目のシングル。松田聖子の作品で、長きに渡り作詞を担当していた松本隆先生が、遂に中森明菜に作詞提供した点など、様々な視点から見ても味わい深い。

この作品をリミックスアルバム制作陣は、より妖艶に歌う中森明菜に仕上げている。楽曲はまさに “桜の花びらが夜空を舞う” イメージだ。それは、まるで松本隆先生の描いた世界が宙を舞うようにも聴こえるのだ。

#4:BLONDEマツコ・デラックスも、私も、そしてきっと日本中のオカマが大好きなナンバーが1987年6月3日にリリースされた「BLONDE」である。リミックスアルバムでは、オリジナル作品とは打って変わって、時に攻撃的に、時に愛おしい雰囲気―― ではなく、ミディアムテンポな装いに仕上げている。それにより妖艶さが増していて、”こんな明菜、聴いたことない!” と思えるほどのクオリティだ。

#5:TANGO NOIR1987年2月4日リリース。明菜パワー全開で、魅力的な男性に身も心も惹かれ堕ちていく女性像を歌っている作品なのだが、オリジナル作品にあるタンゴ風に味付けしたロックではなく、打ち込みサウンドで楽曲が持つ扇情的雰囲気を演出している。

初めて聴いた時は “こう来たか!” と思った。ボーカルがより前面に押し出しているので男女の駆け引きがより際立っている。

#9:BALLAD-MEGAMIX「セカンド・ラブ」「AL-MAUJ」「ジプシー・クイーン」「LIAR」「忘れて…」―― をメドレーしたリミックスナンバー。全ての楽曲でオリジナル作品を違和感なく繋げているところにはプロの手腕が光る。

このことから、制作陣のこだわりが1曲1曲から読みとれる。カフェ、ラウンジ、もちろんクラブシーン―― あらゆるシーンでBGMとして使える作品でもある。ジャンルは、”フューチャーファンク” とも言うべきが一番ピッタリくるかな。

そして、もう一つ言えることが…。それは、中森明菜が発表したオリジナル作品がしっかりしているからこそ、リミックスアルバムも成立するのである―― と。

今、Night TempoをはじめとするDJが80年代アイドルをリミックスしたり、書籍等では歌謡曲特集が組まれたりと賑わいを見せている。今回ご紹介した中森明菜リミックスアルバムも、若い世代をはじめ多くの “音楽好き” に愛聴される作品となっているので、ぜひ楽しんでください。

カタリベ: 小倉理史

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