【えほんのとびら】No.235「鹿よ おれの兄弟よ」

福音館書店
作:神沢 利子
絵:G・D・パヴリーシン

 「おれは 鹿の肉を くう それは おれの血 おれの肉となる だから おれは 鹿だ」

 この作品は、幼少期を樺太で過ごした児童文学者の神沢利子さんが、自身の生命観を、シベリアで暮らす若い猟師のことばに托してうたった詩です。

 若い猟師が川をさかのぼってやってきたのは、鹿の好物の水草が生えている岸辺。森の主、川の主に祈って鹿を呼びよせ、銃を放つと、鹿は四足を天に向け、静かに息絶えました。その鹿に感謝の祈りをささげ、一本の骨も傷つけることなく解体し、妻子の待つ小屋へ帰って行くのです。

 彼の父も祖父も、同じように鹿から生命をいただきながら、自分たちの生命をつないできたのでした。食べる肉も着る服も、母親の満月のような乳房からほとばしる乳も、みな、鹿の生命からおくられたものなのです。

 絵を描いたのは、シベリア在住で、ロシア人民美術家の称号をもつ画家です。大きな画面いっぱいに描かれた繊細な色合いの細密画によって、詩にこめられた大自然の摂理が一段と深く強く胸に迫ってきます。

ぶどうの木代表 中村 佳恵

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