「岸田る」とは

 自作の新語を全国から募り、国語辞典ふうにまとめた「辞書に載らない日本語」(大修館書店)は10年前に出された本で、いま読み返しても面白い。例えば、小沢一郎氏からの連想で「小沢る」といえば〈(1)裏で牛耳る(2)子分をたくさん持つ〉ことを意味する▲菅直人元首相にちなんだ「菅ばる」は〈的外れな頑張りを見せる〉と手厳しい。なるほど、と思いはするが、「小沢る」も「菅ばる」も、今では意味がよく通じない単語だろう▲「完全無欠」のもじりで「完全墓穴」は〈完全に墓穴を掘って、どうしようもないさま〉とある。この単語ならば、今の政権に通じるかもしれない。岸田文雄首相は、続投させるはずだった葉梨康弘法相を一転、交代させた▲辞任を求められても「説明責任を果たしてほしい」とかばった。経済再生担当相を辞めた山際大志郎氏にも、言い逃れができなくなるのを見計らうようなタイミングで、交代を言い渡している▲どうにか閣僚の「辞任ドミノ」を避けて、外交で巻き返すつもりだったらしい。守りに回った揚げ句、わざわざ国民の不興を買うようなことを繰り返す。「完全墓穴」に違いない▲〈自分の手で自分を最悪の方向へ導くこと〉か〈時機を逸すること〉か。「岸田る」という新語をつくるとすれば、意味は何だろう。(徹)


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