芸能人を起用していることだけで安心してはいけない。詐欺事件を起こした、名もない投資会社が1300億円も集められたワケ

これから増える恐れがある「資産運用詐欺」。一度、お金を出したら終わりです。少なくとも全額が戻ってくることは、ほぼありえません。騙されないようにするための注意点を、これから数回に分けて説明していきます。


警察庁の統計によると、未公開株、社債、外国通貨の取引、ファンドへの投資勧誘などを装いお金を集める、利殖勧誘事犯に関する相談当事者の年齢で、20代、30代、40代の相談件数が増えていることを、前回説明しました。その理由のひとつとして、老後に対する不安があるのは間違いないでしょう。

老後の不安を解消するためには、多少の蓄えを持ちたい。でも、働いて得る収入はなかなか増えない。現実問題として、日本経済はこの30年、ほとんど成長しておらず、そのような状況下では、大昔のように誰もが豊かになれるなんてことは、まずありえません。豊かになれる人と、逆にどんどん貧しくなる人の格差が、広がっていくのです。

そういう現実に直面していることを認識しているから、現役世代は焦っているのです。

「とにかく何とかして資産を増やさなければ、安心して老後を過ごすことができなくなる」。

そういう焦りが高じたところに、例の「2000万円問題」がいきなり投下されたため、それまで資産運用にさほど興味を示さなかった人たちが、浮足立ってしまいました。

焦って始めて良いことなど、ひとつもありません。そもそも冷静な判断能力を欠いている状態になるからです。結果、どう見てもリスクに対して見合わないリターンしか得られないのに、詐欺的連中の口車に乗せられてしまうのです。

少し時間を置いて冷静に考えれば、何かおかしいことに気付くはずです。なので、たとえばどこかのカフェや喫茶店に呼び出されてセールスされたとしても、その場で即答してはいけません。「2、3日考えさせてください」といって、まずはその場を離れましょう。

とはいえ敵もさるもので、恐らくこう言ってくるはずです。

「実は、この申込枠は間もなく無くなります。今なら特別に私が〇〇さんのために枠を抑えることはできますが、あと2、3日答えを待つことはできません。この場で判を押してください」。

このように言ってきたら、もう100%詐欺と思っていただいて結構です。

そもそも本当に有利な投資案件であるならば、お客さんのために枠を抑えることなどしなくても、自分が買えばいいだけのことです。それをせず、人に売りつけるのは、その投資案件がロクでもないものであることを、自ら公言しているようなものなのです。

そういう時は、こう言い返してあげて下さい。

「そんなに良い投資商品なのに、どうして自分で買わないのですか?」と。

これで相手が返答に窮したり、あるいはつじつまの合わない回答をしてきたりしたら、まず間違いなく詐欺です。

ところで、この手の詐欺的な投資案件を扱っている会社は、恐らく誰も名前を聞いたことがない会社だと思います。

すでに摘発された事例なので、ここでいいますが、私がかつて取材した先だと、グース&グリドアイアン(G&G)、エンジェルファンドネットワーク、GMBインターナショナル、日本プライベートバンキングコンサルタント(JPB)、MRIインターナショナルなど。いずれも社名など一度も聞いたことがない、というようなところばかりです。

そうであるにも関わらず、なぜお金を集めることができたのでしょうか。

ちなみにMRIインターナショナルという会社は、1300億円あまりの資金を集めました。まったく名前を聞いたことがない投資会社に、なぜそれだけの集金力があったのか。その要因のひとつが、「広告塔」の存在です。

年6.0~8.5%という高利回りを保証していたことも要因のひとつですが、もうひとつ大きな要因が、「広告塔」の存在です。こういった会社は信用力を補完するために、芸能人をはじめとする著名人を広告塔に使っていたのです。

具体的には、顧客向けに発行していた情報誌の表紙を著名人が飾り、かつインタビュー記事なども掲載したものや、元芸能人と社長との対談を広告に掲載していたケース、食材のオーナー商法では有名料理人が広告塔に使われていたケースもありました。

名前を聞いたこともない会社が、芸能人を広告に起用して宣伝をしているような場合は、詐欺を疑った方が良いでしょう。

詐欺が明らかになったとき、広告塔になった人は、「こんなことになるとは知りませんでした」、「私も騙されていました」などと言い逃れをするのですが、犯罪に加担したことに変わりはありません。誰が仕事を取ってきたのかは知りませんが、きちんと調べれば、怪しい業者かどうかは分かりそうなものです。それを怠ったがために、著名人が広告に出ているからと信用してお金を出した人たちが騙されたのですから、詐欺に加担したと非難されても仕方がないでしょう。

最近、この手の広告塔については、もう少し巧妙になっている感があります。それについては次回、詳しく説明します。

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