チェッカーズからのラストメッセージ♪最後の紅白でも歌われた「Present for you」 

チェッカーズのラストシングル「Present for You」

1992年11月20日、ザ・チェッカーズ(以下チェッカーズ)はラストシングルとなる「Present for You」をリリース。前作「Blue Moon Stone」から6ヶ月のインターバルを置いてのリリースだった。デビュー以降、約3ヶ月〜4ヶ月ごとのスパンでコンスタントにシングルリリースを続ける彼らにとっては異例のこと。

今からちょうど30年前のこの時期、チェッカーズファンにとっては忘れられない季節だったと思う。同年の10月9日テレビ朝日系列の音楽番組『ミュージックステーション』で正式に解散を発表。そして、12月にラストツアーを行い、12月31に放送される『紅白歌合戦』の出演を最後にバンドは解散するという計画が打ち出された。

ラストシングルである「Present for You」のリリースは、チェッカーズが解散へと向かう秒読みがスタートしたことを意味していた。

前作「Blue Moon Stone」の完成度は相当のものであった。藤井尚之が手がける楽曲ならではのフックの効かせ方が秀逸だ。さらに、日本人の琴線に触れるメロディラインを持ちながらも、後期チェッカーズの音作りの方向性として主軸にあったブルーアイドソウル色が強い洗練された印象があった。つまり極めて洋楽志向でありながら、日本のマーケットに十分響かせることのできる作品だった。大土井裕二、徳永善也が織りなすリズム隊を主軸として織りなす、なめらかなグルーヴが頂点を極めたようにも感じた。

アメリカン・オールディーズをキャリアの起点としたバンドがここまでの多様性を持つことはなかなか考えづらい。しかし、相変わらずお茶の間を賑わせながら、それをやってのけたのがチェッカーズだった。

「Blue Moon Stone」から「Present for You」までの約6ヶ月、メンバーの苦悩は、計り知れないだろう。音楽性を深め、バンドとして独自性の高いグルーヴを深化させながらも解散を選択しなくてはいけない事情は言葉で表せるものではない。このような状況の中でリリースされたラストシングルは、前作を踏襲しながらも、その根底に感じるチェッカーズらしさがなんとも彼ららしい作品に思えた。

真のポップスは口伝えで伝わる

「Present for You」で感じたチェッカーズらしさとはつまり、彼らのルーツであるドゥーワップ色が前面に打ち出されていること。そして、普遍的な愛がシンプルな言葉で語られているということだった。

チェッカーズが奏でるメロディ、紡がれるリリックの根底は普遍性だ。それは1984年11月21日リリースされ、最大のヒットシングルとなった「ジュリアに傷心」のB面に収録されている「チェッカーズのX'mas Song」から始まっているように僕は感じる。

 二人だけのX’mas  君はもう夢の中  はしゃぎすぎた夜を  雪はつつみはじめる

―― と極めてパーソナルかつ普遍的なリリックこそがチェッカーズを象徴していた。

ここで描かれる “君” とは言うまでもなくファンのことで、ファンが自分たちの音楽を通じて幸せであれば、僕らも幸せなんだというメッセージに受け取れた。このラストシングル「Present for You」でも同じような感触を得ることができた。つまり、チェッカーズのマインドはなにひとつ変わっていなかった、と。

先日、NHKの音楽番組『SONGS』に出演した藤井フミヤは、自身の楽曲「TRUE LOVE」についてこんなことを語っていた。

「上を向いて歩こう」みたいな曲が作りたかった。「上を向いて歩こう」は、CDを持っている人がほとんどいないのに、みんな歌える。真のポップスはソフトもハードも必要としない。口伝えで伝わる

―― と。

これは、おそらく、チェッカーズ時代から変わっていない藤井のスタンスだと思う。どんなに革新的に音楽に取り組みながらも、そこに忍ばせる普遍性があるから、彼らの楽曲は何年経っても懐メロにならず、心の隅にメロディとリリックが生きつづけている。そして、これが彼らのラストメッセージとしてリアルに打ち出されているのが「Present for You」だ。

そして、この普遍性とは、ファンに対する思いでもある。ソフトもハードも必要としない真のポップスを作り続けることにより、ファンの心には永遠に残る。それが自分たちにできる最高のプレゼントだと言うことを知っているバンドなのだ。

最後のステージ、紅白歌合戦で歌った「Present for You」

ファンの心に永遠に残る真のポップスを作りつづけたチェッカーズは、紅白歌合戦という最も多くの人の目に触れられる舞台を最後のステージに選んだ。ロックバンドらしくファイナルツアーの最終公演を武道館で終えて、カッコよく解散すればいいだろう、という声もあったかもしれない。それでもあえて紅白歌合戦を最後のステージに選び、メドレーを歌った。それは、テレビで育った自分たちが恩返しをできる場所として最も相応しいと思ったからだろう。

当時の映像を観るとスタートの「ギザギザハートの子守唄」から、観客席にいたファンの熱唱がダイレクトに伝わってくるのが分かる。チェッカーズは常にファンの側にいたのだ。その紛れもない事実が、最後のステージでも痛いほど伝わってくる。

そして、メドレーの最後に歌われたのは「Present for You」だった。

カタリベ: 本田隆

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