再開見通せない『対馬―釜山航路』 準備整わず、コロナ懸念も

かつて韓国人観光客でにぎわっていた比田勝港国際ターミナルは利用者がおらず、静まり返っている=対馬市上対馬町

 国境の島・対馬と韓国・釜山を結ぶ国際定期航路の再開の見通しが立たない。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年3月から休止が続くが、JR九州高速船は今月4日、博多-釜山間で再開した。対馬航路は検疫など受け入れ態勢の調整がつかず、コロナの流行第8波も懸念材料。対馬の観光事業者らはインバウンド(訪日客)の回復を期待し、早期の再開を待ち望んでいる。
 対馬市によると、釜山と比田勝、厳原をそれぞれ結ぶ高速船で対馬を訪問した韓国人観光客は18年に最多の約41万人を記録。韓国人の島内消費額は17年に約79億円に上った。19年時点で日韓6社が運航していた。
 入国者の7割超を占めた北部の比田勝港。観光事業者らは大打撃を受けた。「航路が止まって売り上げは95%以上落ち込んだ」。比田勝地区でレンタカー事業を手がける今村純一さん(48)は肩を落とす。
 レンタカーは島内周遊用として人気だったが、需要がなくなり車検が切れた車もあるという。すし店などを営む武末智彦さん(46)は「以前は店の前にすごい行列ができていた。どこの事業者も航路が止まって悲鳴を上げている」。
 一方、韓国側の船会社関係者は「対馬航路は大きなビジネスになる。韓国側はいつでも再開できるよう準備をしている」と話す。夏ごろから、船会社の幹部らがあいさつ回りや港の視察のため続々と対馬を訪問。比田勝尚喜市長は「(10月下旬時点で)韓国の事業者5社ほどから、対馬-釜山間で運航したいとの要望があっている」と明かす。
 国と県によると、航路の再開はCIQ(税関・出入国管理・検疫)や自治体、運航事業者などが調整して判断する。対馬では検疫態勢など受け入れに向けた準備が整っていないことで調整がつかず、再開の判断に至っていないとみられる。県対馬振興局や市の担当者は「見通しは分からない」と口をそろえる。
 コロナ流行第8波も懸念される。専用病床が少ない対馬で訪日客に陽性者が出た場合、対応できるのか。大都市を結ぶ博多-釜山航路は週末を中心に運航を再開したが、国土交通省外航課は「本土と比べて離島は医療体制が弱く、航路再開に向けたハードルは高い。再開するにしても、いきなりフルスペックでは難しい」。県市の担当者らは「(感染症法上の分類が)『2類相当』から『5類』になったり、さらに水際対策が緩和されたりすれば、再開に近づくのでは」とする。
 かつて外国人観光客でにぎわった対馬市。武末さんは「形はどうあれ少しでも早く船が動いてほしい」。今村さんも「予定を早めに示してもらえればレンタカー整備など準備しやすい」と再開の行方を注視する。


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