瞬時!100メートル先の人、犯人だと見抜く警官「メモする男は指名手配中だった」 すごい職質技術の裏側 

若手警察官にアドバイスする職務質問技能指導班の関根育広指導官(中央)=浦和署

 犯罪の摘発はもちろん、抑止の面でも大きな効果がある職務質問。警察の武器で、最も大事な初動捜査の第一歩とも言われている。埼玉県警地域総務課には“職質指導班”と呼ばれる職務質問のスペシャリストが10人所属し、県内全39署の若手警察官らを対象に、培ってきた技術や職務の大切さを伝えている。技能指導官の中の一人で、班長の関根育広警部補(48)は「一歩踏み出す勇気が検挙への近道」。この思いを胸に刻み、自身の声かけ技術のさらなる向上に加え、県警の未来を担う人材育成へ、昼夜、心血を注いでいる。

■集合教養と実戦指導

 「覚醒剤を隠してないか財布の中の隅々まで確認して」

 「動静監視の人は所持品検査と役割分担をしっかり。逃げられたりしないように」

 11月9日、浦和署の駐車場で若手を含めた同署地域課員約40人に実技指導する関根指導官の姿があった。手本を見せてからやってもらい、気になった点があれば、その都度、止めて言葉をかける。アドバイスのタイミングが絶妙だ。

 職務質問技能指導班は、このような「集合教養」を39署で実施するとともに、署員をパトカーに同乗させ実際に職務質問する「実戦指導」を行う。ともに卒配1カ月で浦和署地域課の佐藤翔城巡査(23)と武内明香里巡査(23)は、指導を受け「少しの不審点も見逃さない大事さを学んだ。ひるむことなく、臆することなく、積極的に声をかけていきたい」と口をそろえた。

 関根指導官は普段、雑踏の中の人々のどこを見て、職務質問につなげるのか。薬物摂取が疑われる人の特徴については「何一つやるにも動きがオーバー」で、100メートル先にいても目に入るという。あとは目線や警察官を見た時の反応を注視。磨いてきた技術を駆使し、これまで薬物関係、銃刀法違反、自転車盗など150件以上も摘発している。

■指名手配犯を逮捕

 県警屈指と評される関根指導官の洞察力が、存分に生かされた出来事があった。

 10月中旬、県警同課の男性指導員と共に人事交流で来ていた兵庫県警の男性巡査部長を実戦指導していた時。パトカーを運転しながらも、繁華街近くの公衆電話で、電話しながらメモを取る30~40代の男が目に飛び込んできた。

 公衆電話、メモ、若い男…。瞬間的に違和感を覚えた。電話ボックスの隣にパトカーを止めると、男は同じタイミングで足早に立ち去ろうとした。「ちょっと待ってください」。声をかけて止め、身分を尋ねると、財布から他人名義のカードがたくさん出てきた。男は「俺、実は指名手配されていて、1カ月逃げているんだよ」と切り出した。

 男は覚醒剤取締法違反容疑で、他県で指名手配されていてポーチからは覚醒剤が出てきた。同法違反(所持)容疑で現行犯逮捕した。

■被害者つくらせない

 「刑事警察は被害者の無念を晴らすことだが、地域警察の使命は被害者をつくらせないこと、無念をつくらせないことだ」―。準指導員だった8年前、福岡県警での研修で教わったことが、関根指導官の原点だ。

 職務質問は人対人でマニュアルはない。指導官となった今でも声をかけようか迷う時もある。それでも「一歩踏み出し、声をかけることを頭に入れている」という。「そこでくじけちゃう若い人は結構いるが、犯人を捕まえられれば自信につながるはず。経験の積み重ねが大切なので勇気を出して声をかけてほしい。無念をつくらせない、そういう思いを今後も伝えていきたい」。若手警察官の育成へ、優しい口調の中に、熱いものがあふれ出ていた。

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