「Merry Ole Soul」(1969年、ブルーノート・レーベル) 穏やかで幸せな空気感 平戸祐介のJAZZ COMBO・21

「Merry Ole Soul」のジャケット写真

 今年は皆さんにとってどんな1年でしたか? そんな総括をしてしまう季節になりました。ホリデイシーズンに突入する時期に、ぜひ堪能していただきたいアルバムを紹介します。
 米国のピアニスト兼プロデューサーのデューク・ピアソンが1969年に名門ブルーノート・レーベルからリリースした「Merry Ole Soul」です。69年はジャズを取り巻く環境が必ずしも良いといえる状況ではありませんでした。電子音楽を主体としたジャズロックやフュージョンが台頭。デュークのお家芸だったモダン・ジャズは風前のともしび。そんな中でのリリースでした。
 ジャケットを見ればお分かりの通り、デューク・サンタのクリスマスアルバムになっています。アレンジャーとしての才能を十分に感じさせる、良い意味で非常にポップな仕上がりで、ジャズファンならずとも楽しめる秀逸な作品です。
 全曲ほぼクリスマスソングでパーティーなどのBGMとしても最高だと思います。前述の通り、厳しい環境でのリリースはかなり挑戦的でしたが、同時にジャズがますます難解になっていくシーンに一石を投じた作品にもなったと思います。そういう観点からこのアルバムを楽しむと、プロデューサーとしてのすごさが改めて感じられます。
 デュークは63年に名門ブルーノート・レーベルに所属しながらアーティストの発掘、育成を主としたA&Rという役職にも就任しました。信頼のおける誠実な人間性も相まってレーベル・オーナーであるアルフレッド・ライオンはもとより、ミュージシャンからの人望も厚かったのです。
 自身の作品はもちろん、多くの作品にプロデューサーやアレンジャーとして参加する機会を得て、デュークの才能が花開いたと言っても過言ではありません。曲がシンプルだったり万人が知っていたりするとアレンジは難しさが増します。そんなことをみじんも感じさせないセンス、単なるクリスマス・アルバムを通り越して一つの音楽作品として味わうことができるこの感覚は、デュークの作品だからこそなのかもしれません。
 体調の悪化で70年代は不遇の時代を過ごし、80年に他界します。もし今も健在であれば、帝王クインシー・ジョーンズと双璧をなす音楽界の巨匠プロデューサーになっていたと思います。皆さまもぜひデュークのクリスマスアルバムを聴いてみてください。穏やかで幸せな空気感が味わえるはずです。
 来年も「JAZZ COMBO」連載にお供いただければと思います。良いお年を。(ジャズピアニスト、長崎市出身)

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