今年は「戦」

 1年前、その国旗を見せられても、どの国とは答えきれなかった。旗の上半分は青空の青で、下半分は小麦畑、またはヒマワリ畑の黄色とされていると知ったのも、あの「侵攻」があったからにほかならない▲ウクライナの上半分、青い空には空爆のミサイルが飛ぶ。下半分、一面を黄色に染める小麦の輸出は滞り、供給の不足を招いている。現実がすさまじいぶん、青と黄色の鮮やかさがいっそう際立つ▲日本漢字能力検定協会が公募した年末恒例「今年の漢字」に「戦」が選ばれた。説明は要るまい。ロシアによるウクライナ侵攻が世界に緊張を走らせ、今も緩む気配はない▲「戦」が選ばれるのは米同時テロ、アフガニスタン戦争が続いた2001年以来らしい。今年はサッカーW杯の熱戦も表し、物価高との戦いを含むというから、多くの人が肌身に感じた1字だろう▲昨年は、東京五輪・パラリンピックの金メダルからの連想で「金」だった。胸が弾んだその時と違い、きのうの揮毫(きごう)には今年のあれこれが胸にじわりと広がるようだったが、皆さんにはどう映ったろう▲新しいカレンダーが壁を飾る頃も近い。〈初暦知らぬ月日は美しく〉吉屋信子。まだ知らない、先の日々は美しく、かの国でなびく旗も美しく。そんな年であれと、気の早い願い事をする。(徹)

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