公的年金、2022年と2023年の改正は密接に関連している−−受給開始時期の拡大をFPが解説

2022年もあとわずかとなりました。2022年は公的年金制度について、多くの改正が施行された年でした。その改正点について振り返り、また2022年改正と関連する2023年の改正についても確認していきます。


(1)2022年改正を振り返る

2022年4月、60歳台前半の在職老齢年金制度の基準額の緩和が行われ、28万円基準から47万円基準となりました。

(1)年金の月額
(2)標準報酬月額
(3)直近1年間の標準賞与額の12分の1

(1)から(3)を足して基準額を超えると、超えた分の2分の1の年金がカットされますが、基準額が緩くなったことにより、働いても年金がカットされにくくなりました。

同じく2022年4月に受給開始時期の選択肢が拡大され、65歳から受けられる老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げ受給について、75歳まで可能となりました。繰下げ受給は受給開始を遅くする代わりに受給額を増額させる制度となりますが、1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額され、66歳(65歳での受給権発生から1年経過)以降であれば可能です。

改正前は70歳42%(0.7%×60ヵ月)増額が上限だったところ、改正後は75歳84%(0.7%×120か月)増額まで可能となりました。ただし、原則1952年4月2日以降生まれの方が対象です。老齢基礎年金、老齢厚生年金、それぞれで希望する受給開始時期を選択できますが、75歳までへと拡大されるようになって、受給の選択肢が増えることになりました。

また、同じく2022年4月、在職中毎年1回の老齢厚生年金の改定(在職定時改定)の導入によって、65歳以降の年金の再計算が退職や70歳到達を待たなくても行われることになりました。毎年、9月1日時点で厚生年金被保険者である人について、その前月(8月)までの記録を基に10月分から年金額が改定されます。10月分は11月分と合わせて12日15日に支給されますので、改正後2022年12月15日に初めて在職定時改定が反映された年金が支給されています。

さらに2022年10月に、週20時間以上勤務で社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入対象となる方の、勤務先の企業規模要件が緩和されるなどその適用拡大もされています。

いずれの改正も、これからの年金の受給と働き方に大きく影響を及ぼすような改正であると言えます。

(2)繰下げをせず、さかのぼる場合の注意点

改正で繰下げは75歳まで可能となりましたが、繰下げを予定し、年金の手続きをせず待機していた人が、結局繰下げ受給を選択せず65歳にさかのぼり、65歳開始で受給する方法を選択することもできます。

例えば、68歳0ヵ月開始での繰下げを検討して待機していた人が、その68歳になった時に繰下げ受給を選択せず、65歳開始の増額なしの年金として受給することになります。68歳時点では、65歳から既に3年経過していますので、増額なしの年金を過去の3年分をさかのぼって受給し、68歳以降の将来の年金についても、繰下げをしないことから増額なしで受給することになります。年金の時効は5年ですので、5年以内であればさかのぼって受給が可能となっています。

しかし、ここで疑問が生じます。繰下げ受給は75歳まで可能となりましたが、70歳を過ぎてから繰下げをせずさかのぼった場合は、65歳から5年を過ぎていますので65歳までさかのぼれないことになります。時効は5年のままである以上、さかのぼっても増額なしの年金を5年分受け取るのみになるのでしょうか。

(3)2022年改正に関連する2023年の改正

この2022年4月の受給開始時期の拡大に関連する改正が2023年4月に行われます。もし、2023年4月より65歳から5年を超えてから、つまり70歳を過ぎてからさかのぼると、その5年前に繰下げをしたものとみなされ、5年前の増額率で年金を受給することになります。
※原則、1952年4月2日以降生まれの方が対象

例えば、72歳0ヵ月で繰下げ受給(0.7% × 84ヵ月 = 58.8%増額)をするつもりで65歳から7年間待機していた方が、72歳0ヵ月時点で繰下げ受給をせずさかのぼって受給する場合、その5年前である67歳0ヵ月で繰下げ受給を開始したものとみなされます。5年前の繰下げとなると67歳0ヵ月繰下げですので、2年分・16.8%(0.7% × 24ヵ月)の増額で受給することになります。ここで67歳から72歳の過去5年分の年金を16.8%増額された額で受給し、72歳以降の年金も16.8%増額の年金を引き続き受給することになります。

(4)手続きをしないまま亡くなると増額なし

ただし、70歳超で繰下げ待機中の人がそのまま亡くなった場合、その遺族が本人の代わりに受け取る未支給年金については、5年前のみなし繰下げの扱いにはならず、本来の増額なしの額の5年分で支給されることになります。

以上のように、2022年の改正と2023年の改正が密接に関連しています。これから年金が受給できるようになる人、特に繰下げ受給を検討している人は、改正点について確認しておきたいところですね。

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