宿泊業の売上高が底打ち、2年ぶりに増収 全国5,031社「宿泊業」業績動向調査

 全国の主な宿泊業5,031社の直近決算(2021年7月期-2022年6月期)の売上高合計は2兆3,530億円(前期比7.6%増)と、2年ぶりに増収に転じた。コロナ禍で前期はインバウンド需要の消失や国内観光客の激減で急速に業績が落ち込んだが、ようやく底を打ったことがわかった。
 ただ、コロナ禍前を含む前々期(3兆7,504億円)と比べると約6割(62.7%)の水準にとどまり、本格的な需要回復にはまだ時間を要しそうだ。

 直近決算で最終損益が判明した1,621社の損益合計は、1,858億7,300万円の赤字だった。赤字企業率も前期の59.4%を底に、最新期は52.6%まで回復した。2022年10月には、訪日観光客の入国制限人数を原則撤廃したことで、前期に消失した外国からの旅行客が見込まれる。
また、10月11日に開始され、12月下旬で終了予定の「全国旅行支援」も、年明け1月10日から再開されることが決定した。一方、新型コロナ新規感染者数は、12月に入り増勢で推移しており、先行きには不透明感が漂う。遠方旅行など宿泊需要の増加に、事業者側も期待感が膨らむなか、こうした懸念や、賃金の急速な上昇やコスト高の長期化と、それに伴う価格転嫁など、宿泊業でも経営への不安材料は少なくない。

  • ※ 国内の宿泊業者が対象。単体決算で最新期を2021年7月期決算-2022年6月期決算として、売上高が3期連続で比較可能な5,031社(最終損益は最新期1,621社)を対象に抽出、分析した。

売上は前期を底に回復基調

 5,031社の売上高合計は、最新期(2021年7月期-2022年6月期)で2兆3,530億3,300万円だった。外出自粛要請により、観光地、レジャー施設でも休業や時短営業が相次ぎ、企業の出張需要も急減した前期(2020年7月期-2021年6月期、売上高2兆1,863億6,400万円)から7.6%増収となった。
 売上の落ち込みは前期で底を打ち、回復への兆しがうかがえる。ただ、コロナ禍以前を含む前々期と最新期の差は、1兆3,974億100万円あり、コロナ以前まで回復するには、まだ時間を要しそうだ。

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増減収別 最新期では3割が増収に回復

 対前年比での増減収別推移は、外出自粛要請の開始当初を含む前期は、減収企業が79.2%(3,985社)と8割を占めた。期中にGo Toトラベルなど旅行支援策の実施を含むものの、実施期間も限られ、効果は限定的だった。
 最新期では、「県民割」などの地域観光支援策などに起因する近郊への旅行の定着もあり、増収企業は32.8%(1,650社)と前期から26.0ポイント回復した。ただ、減収企業が35.7%(1,800社)と増収企業を上回る状況が継続しており、コロナ禍の長期化により、引き続き厳しい経営環境に置かれていることに変わりはない。   

 

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損益別、回復に向かうが半数が赤字決算

 最終損益の赤字企業は、コロナ前を含む前々期は3割(32.5%)にとどまっていた。しかし、コロナ感染拡大が深刻化し、外出自粛や旅行控えが定着するにつれ、宿泊ニーズは低下。業績悪化で赤字企業率が急上昇し、前期には59.4%と6割の企業が赤字に転落した。
 最新期では5.3ポイントと若干回復したものの、半数以上の企業が赤字から抜け出せずにいる。最新期ではいまだに、売上高上位10社のうち、7社が赤字となり、経営への深刻な影響が長引いている。

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 最新期(2021年7月期-2022年6月期)の宿泊業者の売上高は、コロナ前を含む前々期(2019年7月期-2020年6月期)から37.2%減と約4割減少している。売上高上位10社のうち、8社が前々期と比較して売上高が下回り、10社中、7社が最新期でも赤字を計上するなど、宿泊業国内大手でも、このコロナ禍の2年半以上の期間、厳しい経営を強いられていることが分かる。  ただ、2022年3月には、全国に発令されていた「まん延防止等重点措置」が解除され、5月の大型連休や、お盆などの行楽シーズンには大手航空会社で、国内線の乗客数が前年比で8割増となるなど、長距離移動を伴った遠出観光も次第に活発化した。
 さらに、10月には、これまで1日当たり5万人に制限されていた外国人旅行者の入国人数の制限が、原則撤廃された。これまで、国際線の発着を見合わせていた新千歳や仙台などの地方の主要空港でも再開し、今後は外国からの観光客による宿泊需要も期待される。
 一方で、急な客足の回復や期待感により、宿泊業をめぐる雇用情勢は今夏を境に、急速に“人手不足”となった。2022年9月の全国の宿泊業・飲食サービス業の新規求人数(パート従業員含む)は6万5,660人で、2022年4月から9月まで、6カ月連続で前年同月を25%以上上回る水準で推移し、顕著な人手不足を裏付けている。こうしたなか、賃金の上昇など、人材確保に掛かるコストアップは経営の負担となってのしかかっている。
 さらに、資源価格の高騰も長期化する。サービス料等への価格転嫁など、宿泊業を取り巻く経営環境は、アフター・コロナに向けた新たな課題も表面化している。

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