沖合でジギング中に高波…船外機は水浸し、スマホは海に落とし絶体絶命 ミニボートで独り海釣り中に悲劇【敦賀海保日誌】

事故に遭ったミニボート(2022年11月・福井県美浜町)

突然ですが、みなさん最近映画って見ましたか?私はここ最近、DVDやサブスクではなく映画館で見る映画鑑賞にはまっています。やっぱり単純に迫力が違いますし、内容にどっぷり集中して見ることができて、見終わった後の満足感が格別なんですよねぇ。邦画、洋画、アニメーション、アクション、ラブストーリー、ホラー・・・人それぞれ好みは様々でしょうが、たまには映画を見て非日常を味わうのもいいのではないでしょうか?

余談はさておき、福井県沿岸の海上ではパニック映画さながらの遭難救助劇が繰り広げられています。

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2022年11月下旬、福井県美浜町の沖合で男性1人乗りのミニボートが遭難する事故が発生しました。ミニボートに乗っていたのは、岐阜県在住の外国人男性。

男性はこの日、今が旬のブリなどの魚を狙うジギングという釣りを行うため福井県美浜町の海岸に訪れ、日の出前の午前6時ころ浜辺からボートを降ろして出航しました。この段階では比較的穏やかだった海上模様。ですが状況は突如として一変します。

男性が沖合でジギングを始めて3時間ほど経ったころ、突然風が強くなりだし、これに伴って波も高くなり海が荒れてきました。瞬く間に海の状況は悪化していき、気付けば周りの景色はまさに「東映」映画のオープニング映像のよう・・・。

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男性は身の危険を感じ、出港した場所へ帰ろうと船外機を起動しようとしますが、高い波がボートに打ち付け船外機が水浸しになり、その影響でエンジンが全く掛からなくなってしまいました。船外機のほかにオールなど何も積んでいなかった男性は、ボートを動かす手段を無くし海の上で完全な遭難状態に・・・。

このとき、海上は秒速10メートルほどの強風が吹き荒れる状況で、男性が乗ったボートはみるみる内に沖合へと流されていきます。すると、たまたまボートの近くに漁具のブイが浮かんでいることに気付き、男性は必死の思いでボートの上からブイにしがみ付き、なんとか流れを食い止めることができたのでした。

大荒れの海の上でとてつもない恐怖を感じた男性は、たまらず持っていたスマホで海上保安庁118番に通報し救助を要請。しかし、事故の状況を海上保安官に伝えていた最中、大きな波の揺れで男性は誤ってスマホを海に落としてしまったのです!

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次々と襲い来るハプニング!移動手段も連絡手段も失い、さらには波がボートに繰り返し打ち付けることで中に海水が溜まってきました!・・・

救助要請の通報を受けた敦賀海上保安部からは巡視船が出動し、男性が乗ったミニボートを捜索するため、男性のスマホの位置情報から通報場所付近の海域へと向かいました。

ちょうどそのころ、遭難しブイに掴まっていた男性は、なんと港に向かって近くを走っていくプレジャーボートを発見!プレジャーボートに向かって大きく手を振り助けを求めました。すると、プレジャーボートの船長さんがブイにしがみついてこちらに向かって手を振っている男性の姿に気が付きました。船長さんは、ただ事ではないと男性のもとに近付いて、時化た海の上で船内に男性を引き込み無事に救助することができたのでした。

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今回、遭難の原因となった天候の急変。実はこの日、気象庁からは「海上風警報」が発表されていて、沖合ではしだいに風が強まり、波も2.5メートルほどの高波になるという予報でした。そもそも船体が小さくエンジン出力の弱いミニボートで出港できるコンディションではなかったんです。つまりは、気象と海上模様の予報をもっとしっかりと確認していれば、防ぐことができていた事故だったということです。

事故に遭った男性に話を聞くと、1年ほど前にミニボートを購入してから湖では10回ほど出航したそうなのですが、海にボートを出したのは今回で2回目だということでした。天気予報を見て“今日は雨が降らない”ということだけで、この日海に出ることを決めた男性は「海がこんなに怖いものだと知らなかった。」と語っていました。

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期せずして映画さながらの非日常を体験した男性。海上保安官の事情聴取が終わってからも「まだ怖い」とつぶやき、いまだに手が震えていました。これは、福井県沿岸の海だけでも年間を通して数多く発生している事故のドキュメンタリー。あなたがこのドキュメンタリーの主人公になってしまわないように、必ずできる限りの対策と情報収集を行ったうえで海に出てください!楽しいはずのマリンレジャーの結末を“バッドエンド”にしないためにも。(敦賀海上保安部・うみまる)

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