2022年度の賃上げ実施率は77.5% 実施企業の約6割が賃上げ率「3%以上」 ~2022年度「賃上げ実施状況に関するアンケート」調査~

 2022年度に賃上げを実施した企業は77.5%だった。コロナ禍の業績落ち込みから回復途上だった2021年度の70.4%(実施予定含む)を7.1ポイント上回った。集計を開始した2016年度以降、最低を記録したコロナ禍当初の2020年度(57.5%)を20.0ポイント上回り、官製春闘で賃上げ実施率が8割台だったコロナ禍以前の水準にほぼ戻した。

 規模別では、大企業が80.9%に対し、中小企業は77.0%だった。10産業中、卸売業を除く9産業で大企業が上回り、コロナ禍の業績落ち込みを経て規模による賃上げ格差が鮮明になった。

 産業別では、製造業が実施率83.9%と唯一8割台に乗せたが、金融・保険業と不動産業は5割台にとどまり、産業・業種間の差も大きい。

 近年、春闘は「3%以上」の賃上げ目標を掲げている。ただ、3%以上の賃上げを実施した企業は前回調査(8月実施)では30.1%にとどまった。一方、今回の調査では前回の2倍に近い58.1%の企業が「3%以上」を回答した。この差は、電気・ガスなどの値上げや、食料品を含む物価上昇が相次ぎ、賞与やインフレ手当などを支給する企業が増えたことが寄与したとみられる。

 12月に東京商工リサーチが実施したアンケート調査では、原油・原材料価格の高騰分を「全額転嫁」できている企業は4.4%にとどまる。物価高によるコスト上昇分を価格転嫁できないまま、賃上げを余儀なくされている企業も少なくないことがうかがえる。

 2022年度の賃上げは、コロナ禍からの業績回復よりも、従業員の引き留めや物価高への対策の側面が強い。資金力に乏しい中小企業は今後、人件費上昇が収益悪化に拍車をかけることも懸念される。

*   ※本調査は、2022年12月1日~8日にインターネットによるアンケートを実施、有効回答4,767社を集計、分析した。
※ 賃上げ実態を把握するため「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。
※ 資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。

Q1.今年度、賃上げを実施しましたか?(択一回答)

「実施率」は77.5%

 2022年度に賃上げを「実施した」企業は77.5%(4,767社中、3,698社)だった。前年度(2021年8月調査、実施予定を含む)の70.4%から7.1ポイント上昇した。定期的な調査を開始した2016年度以降で最低を記録した2020年度の57.5%(実施予定を含む)からは、20.0ポイントの回復。

 規模別では、大企業が80.9%(625社中、506社)、中小企業は77.0%(4,142社中、3,192社)で、大企業が3.9ポイント上回った。

賃上げ1

産業別 賃上げ実施企業率、製造業が8割超で最大

 Q1の結果を産業別で集計した。「実施した」割合が最も高かったのは、製造業の83.9%(1,468社中、1,232社)だった。以下、建設業79.8%(619社中、494社)、卸売業78.2%(1,035社中、810社)と続く。最低は、金融・保険業の55.1%(29社中、16社)だった。不動産業の57.4%(108社中、62社)と合わせて2産業が、5割台の実施率にとどまった。

 規模別では、大企業の農・林・漁・鉱業(100.0%)、建設業(94.3%)で実施率が9割を超えた。中小企業で9割を超えた産業はなかった。

 大企業の8割台は、製造業(85.04%)、情報通信業(85.00%)、運輸業(81.8%)の3産業。中小企業は製造業(83.7%)の1産業のみだった。

 賃上げの実施率は、卸売業だけで中小企業(78.3%)が大企業(77.2%)を上回った。その他の9産業は大企業が上回り、規模格差がはっきりと出た格好だ。

 一方で、業績回復が比較的早かった製造業や、経済の再活性化で人手不足が深刻化しているサービス業他や小売業は、規模による実施率の差は小さい傾向にある。これは人材確保のため、中小企業が身の丈に合わない賃上げを迫られている可能性もある。

Q2. Q1で「賃上げを実施した」と回答した方にお聞きします。前年度と比較して、賃上げ率(全体)はどの程度ですか?

賃上げ率「3%以上」が約6割

 Q1で「実施した」と回答した企業に賃上げ率(全体)を聞き、2,124社から回答を得た。

 賃上げ率「3%以上」を達成したのは58.1%(1,236社)で、約6割を占めた。

 産業別では、「3%以上」の最高は金融・保険業の85.7%(7社中、6社)。

 以下、農・林・漁・鉱業の70.0%(10社中、7社)、建設業の63.6%(289社中、184社)、不動産業の62.5%(32社中、20社)と続く。

 6割を下回ったのは、運輸業の50.6%(75社中、38社)など3産業。

 また、小売業における「3%以上」の賃上げは、大企業が100%(5社中、5社)、中小企業が57.6%(78社中、45社)で、規模による差が最も大きかった。

GC注記重要事象3

Q3.前年度と比較して、定期昇給率はどの程度ですか?

定期昇給率、「2~3%未満」が約4割

 Q1で「実施した」と回答した企業に定期昇給率を聞いた。2,053社から回答を得た。

 最多レンジは、「2~3%未満」の36.2%(745社)。次いで、「1~2%未満」23.2%(477社)、「3~4%未満」17.8%(366社)の順。中央値は、規模にかかわらず2.0%だった。

 規模別では、大企業の「2~3%未満」が40.9%(220社中、90社)、「1~2%未満」が29.0%(64社)で、それぞれ中小企業の35.7%(1,833社中、655社)、22.5%(413社)を上回った。

 一方、「1%未満」「4~5%未満」「5~6%未満」などのレンジでは中小企業が上回っており、定期昇給率を抑える中小企業と、大幅な定期昇給に踏み切る中小企業の二極化が進んでいる。

 今年度賃上げを実施した企業のうち、定期昇給を「実施していない」は大企業で7.2%(16社)、中小企業では9.1%(167社)だった。

Q4.前年度と比較して、ベースアップ率はどの程度ですか?

ベースアップ率、中央値は1.7%

 Q1で「実施した」と回答した企業にベースアップ率を聞いた。1,922社から回答を得た。

 最多レンジは、「2~3%未満」の26.2%(505社)。次いで、「1~2%未満」の18.2%(350社)、「3~4%未満」の13.8%(266社)の順。中央値は、全企業が1.7%、大企業が0.5%、中小企業が2.0%だった。

 規模別では、中小企業は「2~3%未満」が26.9%(1,720社中、464社)、「1~2%未満」が18.3%(315社)で、それぞれ大企業の20.2%(202社中、41社)、17.3%(35社)を上回り、定期昇給率とは対照的な結果となった。

 また、ベースアップを「実施していない」は大企業が45.0%(91社)、中小企業が25.6%(441社)で、中小企業が19.4ポイント上回った。大企業よりもベースアップに積極的な中小企業の姿勢が見て取れる。

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