<長崎この1年>『核情勢』 抑止論 越えられるか 被爆地長崎の役割や使命

核兵器禁止条約第1回締約国会議でスピーチする朝長さん(左から2人目)=6月、ウィーン

 2月、ウクライナに侵攻した核大国ロシアは「核の威嚇」を続け、世界の安全保障や経済に衝撃を与えた。「核情勢は混沌(こんとん)とし(核抑止論を肯定する)『核の復権』が起こりつつある。どう乗り越え廃絶につなげるか、誰も展望を描けていない」。長崎市の被爆者、朝長万左男さん(79)は危機感をあらわにする。
 侵攻開始から4カ月後、朝長さんはオーストリアで開かれた核兵器禁止条約第1回締約国会議で核の非人道性を訴えた。会議は、核廃絶や核被害者支援に向けた「ウィーン宣言」と「行動計画」を採択し閉幕。だが核保有国は不在で、その核抑止力に頼る日本政府などもオブザーバー参加を見送った。
 8月にニューヨークであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ロシアの反対で最終文書を採択できず決裂。保有国と非保有国の溝の深さをあらためて示した。唯一の戦争被爆国日本でも、米国の核兵器を共同運用する「核共有」議論が浮上。防衛費増額の議論も進む。「戦争せず切り抜けるのでなく、場合によっては、戦争するぞという際どい考え方が出てきたように感じる」。朝長さんはこう危惧する。
 大国間同士の話し合いでは進展が見られず、国連の機能不全も浮き彫りになった。核を巡る世界の分断は続くのか。溝は埋まらないのか。朝長さんは危機を乗り越えるキーワードに「対話と信頼醸成」を挙げる。「政府関係者だけでなく核の専門家やNGO(非政府組織)、われわれ被爆者などを交えた会議で対話し、『核なき世界』へのシナリオを整理して再スタートさせる必要がある」
 来年、朝長さんら被爆者が渡米し、核廃絶を目指すシンポジウムを開いたり米国民と直接対話したりする活動を始める。現地のメディアを通じて世論に訴え、他の国での活動も目指す。「一国の核政策を動かせるのは、やっぱり国民。若い世代も含めて核廃絶を支持する世論を広げたい」。被爆地長崎の役割や使命が問われている。朝長さんは強くそう思う。


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