人気NFTゲームへの大規模ハッキング、FTXグループの経営破綻…。2022年に暗号資産市場では何が起こったのか?

早いもので年の瀬が近づいてまいりました。新型コロナウイルス対策でロックダウンが敷かれていた頃は時間が経つのがあっという間で振り返ることもほとんどありませんでした。しかし、2022年は脱コロナによって人々の行動に自由が戻り、数年ぶりの年末感に浸っている人も多いのではないでしょうか。

2022年は北京冬季オリンピックやサッカーW杯などスポーツの話題が社会を明るくした一方で、ウクライナ戦争をはじめ、米中対立や安倍首相銃撃事件、トラス英首相早期辞任など政治リスクが強く意識されました。何より歴史的なインフレが世界規模で進行し、各国が対応に悩まされました。

そのなか暗号資産市場においても、今ではFTXショックの話題で一色となっていますが、色々な出来事が起こりました。以下では、2022年に起きた業界トピックスを四半期ごとに振り返ります。


単位:ドル
出所:Coinmarketcap、各種報道よりマネックス証券作成
※2022Q4は2022年11月末時点

2022年Q1:ウクライナ戦争と大規模ハッキング

2022年Q1は、米国における利上げ観測によって暗号資産の売りが先行しましたが、ウクライナ戦争をきっかけに逃避資産としての買いが強まる展開となりました。ロシアは制裁回避の手段として、ウクライナは寄付金を募る手段として暗号資産の利用を検討し、実際にウクライナに対しては世界中から100億円を超える資金が暗号資産経由で集まりました。

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この期間には「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」というブロックチェーンゲーム周辺で業界最大規模のハッキング事件も起こりました。当ゲームはイーサリアムに付随する専用のブロックチェーン上で開発されたものですが、イーサリアムとの間で資産のやりとりを仲介するブリッジサービスが攻撃され、700億円超もの資産が失われました。しかし、運営元が不正流出した暗号資産の全量をユーザーに補償し、市場の混乱は収まりました。

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また期初には「ワームホール(Warmhole)」と呼ばれるブリッジサービスにおいても370億円規模のハッキング事件が起こり、2022年はこれ以降もブロックチェーン間の資産移動プロトコルを狙った不正流出事件が多発しました。

2022年Q2:テラショックとステップン暴落

2022年Q2は、インフレが顕著になり、世界的な金融引き締めが加速するなかで暗号資産は大きく下落しました。そこで起きた大事件がテラ発行のステーブルコイン「テラUSD(UST)」の崩壊です。USTは同じくテラが発行する暗号資産「ルナ(LUNA)」を価値の裏付けとし、取引のアルゴリズムによって米ドルとの価値連動を目指していました。しかし、ビットコイン暴落のなかで仕組みが成り立たなくなり、テラへの信用失墜とともに数兆円規模の時価総額が瞬く間に消滅しました。

USTは約20%という高利回りを提供するレンディングサービス(保有している仮想通貨を取引所に貸し出し、利子を得られるサービス)で多くの投資家から人気を集めました。そのため、テラ崩壊による市場への影響は大きく、この期間にはセルシウスやスリー・アロウズ・キャピタルなど暗号資産関連企業の破綻懸念が強まりました。後々に破綻したFTXグループもこの時に大打撃を受けていたのではないかといわれています。

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テラ崩壊のなかで人気の歩いて稼げるアプリ「ステップン(STEPN)」も価値が暴落しました。同アプリはヴァーチャルスニーカー(NFT)を保有して現実に歩くことでゲーム内通貨(暗号資産)を獲得することができます。この期間には中国でのプレー禁止も発表され、相場環境が悪化するなかで関連するNFTも暗号資産も軒並み下落しました。

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2022年Q3:イーサリアムマージと大手金融機関参入

2022年Q3は、米国における金利上昇が一服したことで、暗号資産も株式とともに買いスタートとなりました。そのなかイーサリアムが大型アップデート「マージ(Merge)」への期待から大きく価格を伸ばしました。マージとは、コンピュータ計算に基づく検証アルゴリズム(Proof of Work)から、資産保有量に基づく検証アルゴリズム(Proof of Stake)へ移行することを指します。これによってイーサリアムの取引処理性能が向上し、取引遅延や手数料高騰などの問題が改善されるとされています。

また、イーサリアムはマージ後、タイミングによってはデフレ資産になるといわれています。イーサリアムはマージによってPoW分の新規発行がなくなり、発行ペースが大幅に抑えられました。一方で、イーサリアムには取引手数料の一部をバーンする(流通量から減らす)仕組みがあります。そのため、イーサリアムの利用が増えるほど、新規発行量に対してバーン量の方が上回り、市場流通量が次第に減少することになります。こうした期待もあってイーサリアムはビットコイン建てでも上昇しました。

この期間には大手金融機関による暗号資産市場への参入も目立ちました。世界最大の資産運用会社ブラックロックは顧客向けにビットコイン投資信託の提供を開始し、BNPパリバやバークレイズ、ナスダックらは暗号資産カストディ事業に参入することを発表しました。

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2022年Q4:FTXショック

2022年Q4は、米国金利が再び上昇するなか、暗号資産は軟調な株式とは別に底堅い推移を続けていました。この期間にもバイナンス関連のブリッジサービスでハッキング被害が起こりましたが、相場への影響は限定的となりました。しかし、FTXグループ関連のリーク記事が出たことによって事態は一変し、わずか10日間足らずで大手取引所グループの破綻騒動にまで発展しました。

FTXグループ破綻は現在までもその余波が続いています。FTXグループに出資していたセコイア・キャピタルやテマセクなどのファンドは評価額ゼロとして損失計上し、FTXグループと関わりの深いソラナ関連プロジェクトは揃って価値が暴落しました。また、FTXグループが救いの手を差し伸べていたブロックファイは破綻し、その他の暗号資産関連企業についても連鎖破綻の懸念が高まっています。

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このように振り返ると2022年の暗号資産市場は総じてネガティブな出来事が多かったといえます。大規模なハッキングと経営破綻により、業界全体が抱えるさまざまな問題が明らかになりました。これを受けて各国における暗号資産規制が強化され、一旦は成長にブレーキがかかるかもしれません。しかし、暗号資産の技術も、それに対する企業の関心も失われておらず、暗号資産市場は規制環境が整うことでさらなる発展を遂げるでしょう。

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