2023年の米ドル/円の見通しは?ボラティリティが一変する可能性も

2022年は、1990年以来約32年ぶりの米ドル高・円安を記録するなど、歴史的な相場展開となりました。では来年、2023年の見通しはどうなるか−−「今度は一転して凄い円高になるとか!?」「円安でも円高でも、まだまだすごく動きそう」など、さまざまな憶測がされていますが、どうでしょうか?

「勘」ではなく、論理的に考えて見ましょう。


記録ずくめとなった2022年の米ドル/円

米ドル/円は、2022年10月には151円という、1990年以来約32年ぶりの水準まで上昇しました(図表1参照)。ちなみに、2022年の米ドル安値・円高値は113円なので、米ドルの高値から安値を引いた最大値幅は38円にも達し、1990年以降では最大の年間値幅です。まさに、2022年の米ドル/円は、1990年以降では最もよく動いた、大相場になったと言っていいでしょう。

それにしても、なぜこれほど記録的な米ドル高・円安となったのでしょうか? 10月に151円まで米ドル高・円安となった動きは、米金利とかなりきれいに重なっていました(図表2参照)。その意味では、記録的な米ドル高・円安となったのは、記録的な米金利の大幅上昇に連れた結果だったと言ってよいでしょう。

それでは、なぜ米金利は記録的な大幅上昇となったのか。米金利の中でも、図表2で、2022年3月からの米ドル/円のチャートに重ねたのは、米国の金融政策の影響を受ける米2年債利回りでした。この米2年債利回りは、「金融政策の影響を受ける」というくらいですから、米国の政策金利であるFFレートと基本的には連動します。

FFレートについての解説は割愛しますが、詳しく知りたい方は財務省『フェデラル・ファンド(FF)市場およびFFレート(FF金利)入門-金融危機以降のFF市場および「最後の貸し手」機能の変遷について-』をご覧ください。

そんなFFレートは、約40年ぶりに米国が本格的なインフレに見舞われたことから、インフレ対策として2022年中に4%以上と大幅に引き上げられました。以上から、記録的な米ドル高・円安のリード役となった米金利の大幅な上昇は、インフレ対策による米国の大幅利上げによって起こったということになるでしょう(図表3参照)。

ボラティリティが一変する可能性がある2023年

これまで見てきたことからすると、2023年の米ドル/円の行方は、米金融政策の見通しが大前提になりそうです。そんな米国の金融政策は、2023年に入ってもまだ利上げが続き、FFレートは5%以上に引き上げられるとの見通しが基本でしょう。

その上で、インフレの動向及び米景気の減速具合を見ながら利下げへの転換に向かうものの、今のところは最も金利を下げると予想している人でも、2023年末にFFレートはせいぜい4%まで引き下げられるかどうかといった見通しのようです(図表4参照)。

そんなFFレートを参考に米2年債利回りは推移し、2022年はその米2年債利回りと米ドル/円は、一時期を除くとほぼ重なって推移してきたわけです。このため、FFレートの2023年中の見通しを参考に、米2年債利回りと米ドル/円の見通しをイメージしたのが図表5になります。具体的には、2023年の米ドル/円は、135~145円中心での推移といった見通しになります。

これを聞いて、「えっ!?」と感じた人は多いのではないでしょうか。2022年に最大で40円近くも変動した米ドル/円だったのに、2023年はたったの10円程度の変動幅になってしまうなんて想像しにくいと思います。

さすがに私も最大変動幅が、一気に10円程度まで縮小するとも思いませんが、例えば130~150円といった具合に20円程度に縮小する可能性はありえると思います。というのも、2022年の米ドル/円は、これまで見てきたように、記録的な米国の大幅利上げの影響を受けて大きく動いたわけですが、そんな米国の金融政策の変動率は、2023年は大きく低下すると予想されます。それが米ドル/円に影響するなら、米ドル/円の値動きも、2022年から一転して小さくなる可能性は当然あるでしょう。

ちなみに、大きく動いた年の翌年は小動きになるというのは、過去の経験からも確認されるところです。1990年以降で、2022年と同じように年間値幅が30円以上に拡大したのは1990年と1998年。そして25円以上の値幅になると、1993年と1995年が追加されます。以上の4回は全て、翌年の値幅が3~5割も縮小していました(図表6参照)。仮に、米ドル/円の値幅が2022年から3~5割も縮小するなら、2023年の値幅は20~30円程度に縮小する見通しになるわけです。

今回は、2023年の米ドル/円の予想について考えてきました。まずは、これまでの米ドル/円の動きを説明できるものは何かを確認します。今回の場合は、米金利と米国の金融政策ということでした。そうであれば、そんな米金利と米金融政策が2023年にどんな見通しになるかを考え、それを前提に米ドル/円を予想するということになります。

そういった方法で考えた米ドル/円の2023年のシナリオは、とくに値動き(ボラティリティ)の面などが2022年から大きく変化する可能性がありました。そうであれば、投資戦略も頭の切り替えが必要になりそうです。

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