年賀状じまい

 本欄のお隣「きょうの一句」はどれも味わい深いが、11月の終わりに載った、栗山芳子さんの年賀状にまつわる一句は心に残る。〈老ゆるとは文字の乱れか賀状書く〉▲解説が添えられている。〈…年賀状などに、文字の乱れや震えを感じるようになった。…作者は、それでも「書く」のだ。この気力が見事な老いの有り様〉。一心不乱に筆を運ぶさまが思い浮かぶ▲心のこもったごあいさつをつづられたに違いない。一年も残すところわずかになって、あたふた取りかかるのが“歳末恒例”の身は、一句の気力に縮こまる▲お年を召して、それでも「書く」ことに心を傾ける人がいる。かたや、年賀状のやりとりを整理しようという人もいる。近頃は「年賀状じまい」という言葉をよく見聞きするようになった▲年賀状や寒中見舞いで、今後の賀状を辞退すると伝えることをそう呼ぶが、「書く」のと同じで「しまう」時も心を添えるものらしい。“絶縁宣言”と思われないよう、出さないのはあなただけではない旨を記すこと。今後もメールで連絡します、と書き添えること。「年賀状じまい」の例文集には細かな注意書きが並ぶ▲昨今は年賀状を送らない人が4割に上るという。書く人、書かない人、しまう人。年賀状にまつわる事情は時代とともに様変わりらしい。(徹)

© 株式会社長崎新聞社