「朝起きたら戦争が…」ウクライナから避難した姉妹 祖国は電力不安定のクリスマス「家族や友だちと過ごしたい」

ことし、世界に衝撃が走ったロシアによるウクライナ侵攻。広島県内には、ウクライナからおよそ50人が避難しています。家族と離れ、初めて日本に来た若い姉妹は、祖国に思いを寄せながら広島での生活を続けています。

ファジリャ・ボロジナさん(20)と妹のマリアさん(18)です。ことし9月末、ウクライナから避難のため、来日しました。

広島に来て1か月ほどが経ったこの日、初めて宮島を訪れました。

通訳のナディアさんも一緒です。事前に調べて気になっていた「揚げもみじ」に挑戦です。

ファジリャ・ボロジナさん
「とてもおいしい」

2人が食べているのはチーズ味…。

妹 マリアさん
― あんこも食べてみますか?
「それはノー」

2人のふるさとは、ウクライナの首都キーウです。

妹 マリアさん
「ウクライナでは『キーウケーキ』がとても有名です。クリームやナッツが入ったケーキです」

街並みや景色がきれいで、ふるさとが大好きだという2人。戦争が始まってから町が破壊されていく様子に心を痛めてきました。

医師として働く2人の母は、今もキーウで仕事を続けています。2人は、ふるさとに残る家族や友だちと毎日のように連絡を取っています。

姉 ファジリャさん
― キーウで複数の爆発があった。
「10月10日から毎日、『生きている? 電気は通っている? ガスはだいじょうぶ? 水はある?』と毎日、聞いています」

ふるさとのことが心配でたまりませんが、初めて来た日本で2人だけで暮らすことも心細く感じています。

2人の避難は、広島の地元企業がサポートをしています。

アメリカに住む広島出身の姉妹が、ウクライナ支援のために立ち上げた「ザ・パス・トゥ・ピース」には、広島の13の企業や団体が賛同し、住宅や就職先の支援をしています。

支援企業が提供したアパートに2人は一緒に暮らしています。

姉 ファジリャさん
― これは、ウクライナから持ってきた物?
「ボーイフレンドからのプレゼントです」

大事なものだけを持って、ふるさとを離れました。勉強道具は、ファジリャさんが地元の大学のオンライン授業で建築学を学ぶためのものです。

部屋に飾った大きな国旗は、国から持ってきました。

日本で買ったものもあります。キーウの家族や友人にクリスマスプレゼントを送ろうと、2人で本通りに買い物に行ったといいます。

姉 ファジリャさん
「これ、1番お気に入りのセーターです。ドーベルマンの写真もたくさん持っていて…」

大好きな犬のセーターを見つけて、自分用にも買いました。

この時期、キーウの中心部はイルミネーションで彩られます。

ことしは、ロシアの攻撃による電力不足のため、国旗と同じ色のクリスマスツリーが発電機を使って点灯されました。

キーウにいる2人の母から取材中、電話がかかってきました。

姉 ファジリャ・ボロジナさん(20)
― お母さんは何と?
「今は電気が通っている友人の家に行っているところだそうです」

ロシアによる攻撃で電力が不足しているため、計画停電が続いています。

妹 マリアさん(18)
― お母さんには?
「どこにいるのか聞きます」

姉 ファジリャさん
「シェルターか家か…」

妹 マリアさん
「そして、どんな気分か。わたしたちに心配をかけまいと、いつも母は落ち着いているように振る舞っています」

ことし2月、ロシアによる爆撃が始まるまでは、家族でいつもどおりの生活をしていました。

姉 ファジリャさん
「晩ごはんを食べて、あすの食事と仕事の準備をして、家族で寝ました。翌日、わたしたちが起きたら、母が『戦争よ』と言いました。この時代に戦争なんてありえないと思った。本当の戦争? そんなはずないと」

どうしたらいいか、わからないまま、ひとまずシェルターに行って、ただ座っていたといいます。その数日後、自宅近くでも爆撃が始まりました。ロシアは核をちらつかせる発言を続けています。

姉 ファジリャさん
「みんな、核兵器がどんなものか理解していると思います。なぜ、みんな、それを止められないのか、理解できません。わたしの考えは子どもみたいなのだろうけど、本当に理解できない。どうして、たった1人の人(プーチン大統領)が、世界を操ることができるのか」

SNSで現地の情報を仕入れ、ふるさとに残る家族や友人と連絡を取り続けることが、2人にとって今、一番大事なことです。

同時に日本で生活をするために日本語の勉強もがんばっています。

姉 ファジリャさん
― 何か日本語は覚えましたか?
「キャベツ」

― キャベツ!?
「仕事で使うので…」

妹 マリアさん
「モヤシ・ネギ…」

姉 ファジリャさん
「おいしい」

2人は、先月からオタフクホールディングスで正社員として仕事をしています。毎朝8時ごろ、出社します。

ラジオ体操も覚えました。

日本人の社員とは、簡単な英語や翻訳機を使ってコミュニケーションを取っています。

お好み焼課 春名陽介 課長
「きのうの夜は何を食べましたか? チキン?」

姉 ファジリャさん
「フィッシュ」

春名陽介 課長
「どちらが料理をしましたか?」

姉 ファジリャさん
「わたしです」

春名陽介 課長
「最近では自ら動けるようになってきたので、大事なチームの一員です」

2人が所属しているのは、「お好み焼課」。

お好み焼き教室が開催される日は、材料や調理器具などの準備を担当します。キャベツを切るのもお手の物です。

お好み焼課の先輩
「(豚肉は)凍っているので、あとにしましょう」

お好み焼課の先輩
「彼女たちも覚えようとしてしっかりとやってくれるので、覚えるのもとても早いです。たぶん料理も好きで、最初よりどんどん上手になっています」

お好み焼きも自分たちだけで焼けるようになりました。日本に来るまでヘラを使ったこともありませんでしたが、週に3日ほど、昼食も兼ねて練習を重ねました。

トッピングには、大好きなチーズを入れるのが定番です。

妹 マリアさん
「お好み焼きは好きです。」

はしの使い方にはまだ慣れませんが、少しずつ職場での居心地も良くなってきています。ただ、ふるさとでの生活を恋しく思う気持ちは募る一方です。

先の見えない避難生活の中でファリジャさんを支える目標があります。

姉 ファジリャさん(20)
「ウクライナの復興に携わりたいです。今は建築の勉強をすることが、とても大切だと思っています。たくさんの町が、ゼロからの復興となるから」

「ふるさとをきれいな街並みに戻して、家族や友だちと過ごしたい。少しでも早く帰りたい」と願いながら、広島での歩みを進めます。

― 2人の生活は、たくさんの方の寄付でなんとか成り立っているということですが、慣れない日本での暮らしにはたくさんのサポートを必要とするため、支援する団体では引き続き、寄付を募っているということです。

2人の生活をサポートする「The Path to Peace」は、募金による支援を呼びかけています。

© 株式会社中国放送