武雄温泉止まりでも「博多行き」 全国最短の西九州新幹線に乗ってみた

 【汐留鉄道倶楽部】2022年9月23日、西九州新幹線が開業した。武雄温泉(佐賀県)~長崎約66キロを、東海道新幹線などと同じ線路幅1435ミリ(標準軌)の「フル規格」で結ぶ。1973年に福岡~長崎の「九州新幹線西九州ルート」が整備新幹線に決まってからほぼ半世紀。しかし、武雄温泉から九州新幹線(鹿児島ルート)に接続するまでの区間は、国と佐賀県の間でルートや整備方式が決まらず、着工のめどが立っていない。異例のスタートとなった全国最短の新幹線に、12月に福岡に出張した折に乗車してみた。

 8時54分発の特急「リレーかもめ13号」で博多を出発するはずだったが、前夜に中洲で飲み過ぎたのがたたり、10時4分発の「リレーかもめ17号」に変更する羽目になった。博多から長崎まで、ネット限定の「おためし!かもめネット早特7」で購入済みだったきっぷは片道3200円。7日前までの予約が必要とはいえ、正規の乗車券+指定席券の半額に近く、競合する高速バス(2900円)にも十分対抗できる料金でお得感たっぷりだったが…。払い戻しにはならず、新たな乗車券+自由席券で計5520円の手痛い出費となってしまった。

 10時58分に武雄温泉着。同じホームの反対側から西九州新幹線「かもめ17号」が発車する。対面の乗り換え時間は3分。並んだ両列車を1枚の写真に収めようと急いでホームの先端に行ったが、ホームの幅が広く、新幹線側には当然ながらホームドアがあり、思ったような写真は撮れなかった。

 

長崎駅に停車中の「博多行き」かもめ。ホームの表示も博多行きで統一されていたが、車内アナウンスではもちろん武雄温泉での乗り換えの案内があった

 慌ただしく最後尾の6号車(自由席)に乗り込んだ。シートはやや硬めで、昨年乗車した西武の特急「ラビュー」のイエローを少しおとなしくしたような感じだ。(ちなみに復路で乗車した指定席は柔らかめの座り心地。座席の配置は自由席が通路を挟んで2列と3列なのに対し、指定席は2列と2列でゆったりしていた)。東海道・山陽新幹線で活躍する最新鋭の「N700S」が導入されており、在来線とは明らかに違うスピードと安定感を兼ね備えた走りは快適だった。

 〝覚悟〟はしていたが、とにかくトンネル、トンネル、トンネル…。全区間の約6割を占めるトンネルを抜けても、高いフェンスに視界が遮られることが多かった。「かもめ17号」は嬉野温泉、新大村を通過。車窓に少しの間広がった大村湾の景色を記憶にとどめ、わずか14分で諫早着。1分停車し、さらに8分で長崎に着いた。2駅を通過する「かもめ」は他にもあるが、所要23分は上り「かもめ16号」と並んで最速で、博多~長崎をこれまでより30分短い1時間20分で移動したことになる。

 アーチ状の屋根が美しい長崎駅の高架ホームで、車両をじっくりと見る。真新しい白いボディーに、ひらがなで「かもめ」の3文字。白地に黒々とした筆文字はインパクト十分だ。どんな書道の大家が揮毫したのかと調べると、JR九州の青柳俊彦社長(現会長)とのことで驚いた。ホーム先端の柵には、「日本最西端の新幹線駅」と書かれたパネルが設置されていたが、そこまで足を延ばす乗客は少なそうだった。

 何げなく行き先表示に目をやると「かもめ24 博多」とあった。21分後に折り返す「かもめ24号」はもちろん武雄温泉止まりのはずだが、なぜ博多行きなのか? 後日、JR九州の広報に問い合わせると「武雄温泉では対面で(リレーかもめに)乗り換えられるので、一つの列車としてとらえている」とのことだったが、やはり違和感が残った。

 

同じN700Sでも、「白と青」の東海道・山陽新幹線に対して「白と赤」の西九州新幹線はかなり違う印象を与える。ライトの周りとボディー先端の「黒」が、かもめの顔をイメージさせる

 西九州新幹線はさまざまな検討の末、長崎から武雄温泉まではフル規格(標準軌)の新線を建設、武雄温泉から九州新幹線と接続する新鳥栖までは在来線の長崎本線、佐世保線(線路幅1067ミリ=狭軌)を活用し、車輪の幅を変えて標準軌と狭軌を直通する「フリーゲージトレイン(FGT)」を導入するはずだった。FGTの開発の遅れから今回の対面乗り換え方式での開業が決まったが、2018年に与党のプロジェクトチーム(PT)は、技術的な理由などからFGTの導入を断念してしまった。その後、PTは「武雄温泉~新鳥栖もフル規格で」と方針を変更。大阪方面への直通や時間短縮で大きな効果が見込まれる長崎県は「実現させよう!フル規格!」(同県ホームページ=HP)と応じたが、速達効果に比べ財政負担が大きく並行在来線問題も抱える佐賀県は、国土交通省鉄道局と20年から「幅広い協議」を続けている。

 佐賀県のHPで公開されている最新の協議内容(2月、第6回)を読むと、佐賀県側が時速200キロ(整備新幹線は本来260キロ)のFGTならまだ開発の可能性があるのではないか、武雄温泉での乗り換えの不便さも解消されると主張としているのに対し、国交省側はFGTについて耐久性に課題があり開発困難とした上で、博多まで直通しても低速のため山陽新幹線へ乗り入れられず、博多での乗り換えは解消できないとする。FGTを巡るやりとりはかみ合っていない。

 一方、山口祥義佐賀県知事は定例記者会見で「フル新幹線をだめと言っているわけではずっとない。安易にやる話ではなくて、しっかりと調整しながらやっていく話」(7月)「フリーゲージトレインで解決するはずだったやつを、はしごを外されて国ができないという話になって、佐賀がそれを邪魔しているような報道がなされて、非常に傷ついている」「九州全体のインフラというか、大きな発想で、これまでずっとやってきた議論の延長線ではないところにそのヒントがあるのではないか」(10月)などと述べている。(佐賀県HPより)。山口氏は12月18日投開票の知事選で3選を果たした。

 国交省は20年の試算で、23年度末に武雄温泉~新鳥栖をフル規格で着工した場合、想定工期は約12年としている。西九州新幹線が、FGTにせよ、フル規格にせよ、正真正銘の「一つの列車」で長崎と博多をつなぐ日は、まだまだ先になりそうだ。

 ☆共同通信・藤戸浩一 長崎駅を訪れるのは8年ぶりだったが、新幹線だけではなく在来線も高架化されていたとは知らなかった。新駅舎は150メートル西側に移動し、周辺は再開発工事の真っ最中。ホテルや商業施設も入る新駅ビルは23年、多目的広場は25年に完成し「フルオープン」となる予定だ。

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