株価動向、子どもの成長、仕事の品質管理…統計学の活用法とは

データを分析し、その傾向や法則を導き出す統計学ですが、私たちの生活でどのように使われているのでしょうか?

サイエンスライター・本丸諒 氏の著書『グラフとクイズで見えなかった世界が見えてくる すごい統計学』(飛鳥新社)より、一部を抜粋・編集して統計学が役立つシーンを紹介します。


お金儲けにも、仕事にも、子育てにも役立つ!!

「数学って、なんの役にも立たなかった……」という人がたくさんいます。たしかに、微分・積分やベクトルなどは、日常生活ではあまり使いそうにありません。

ところが、 「統計学」は数学のなかの異端児。生活にもビジネスにも、知っているか否かであなたの人生は大きく違ったものになってきます!

統計学というのは、もっているデータから現状を分析したり、今後の動きを予測したりできるツールです。たとえば「株で儲けたい!」と考えている人には不可欠の知識です。

株で儲けるには、「安く(安値で)買って、高く(高値で)売る」のが原則ではあっても、思うほど、うまくはいきません。「言うは易く、行うは難し」ってヤツですね。

たとえば、A社の株を買おうとしているとき、その株価が下がり続けていたら、どの段階で買えばいいのか? 誰にもわかりません。
逆に、A社の株価が急伸しているときにトレンドに沿って買ったものの、その直後に急落した場合、「もう少し待てばソンをしなかったかもしれない」と思うのが人情です。

株価の動きが見えちゃう統計学

そんなとき、役立つのが「ボリンジャーバンド」という指標です。
下記のグラフを見てください。株価チャート(ロウソク足)とは別に、3本の線が引かれています。

真ん中の線が平均値(移動平均線)で、外側の上下2本がボリンジャーバンドと呼ばれているものです。 ボリンジャーバンドは統計学では「標準偏差」と呼ばれるもので、「株価は、高い確率(95%)でこの間を動くだろう」というものです。

ということは、「ボリンジャーバンドをはみ出しそうだから、そろそろ下がる(上がる)サインかな?」と予測することができます(そして、標準偏差の正しい知識をもっていたら、「100%確実ではない」ことも理解できます)。

これは統計学でいう、

(1)平均値……これはご存じですよね。
(2)正規分布…… 統計学でよく使われます。山型をした左右対称のグラフです。
(3)標準偏差……データのバラツキ具合を示す指標です(統計学で最も重要!)。

の3つの知識を組み合わせ、応用したもの。

運やカンに頼らないで行動ができる

通常、統計学ではこの3つをセットにして、上のような山型で左右対称の曲線(正規分布)で表します。ボリンジャーバンドは、この正規分布曲線を、株価チャートに合わせるため、反時計回りに90度、ドスン! と「横倒し」にしています(このためか、ふだん統計学を勉強している人ほど、すぐには気づかないようですね)。

統計学で正規分布や標準偏差を説明する場合、「95%の確率で、仮説は正しい」といった形で、事前に立てた仮説が正しいかどうか、そのために使われることが多いのですが、株の世界では、「買うか、売るか、少し待つか」といったお金儲けのための行動判断に役立っています。

大切なお金が絡んでくるわけですから、その判断は重要です。そして、誰だって迷います。そんなときは、 運や直感だけで「決断」するのではなく、「確率的に高いものは何か?」を考えて行動したほうがよい はず。統計学は、それを教えてくれるのです。

子どもの育ち方も見える

下記のグラフは成長曲線(発育曲線)と呼ばれるもので、男女別のグラフがあり、成長を記録できるようになっています。そして、色のついた範囲内に子どもの身長や体重などが入っていると、「標準」というわけ。

しかし、なかには「標準」に入らない子どももいます。とくに小さめの場合、とても心配になるでしょう。ただ、心配しすぎるのも考えものです。

このグラフの上下は、ボリンジャーバンドと同じで、「子どもの成長にはバラツキがあり、ほぼ95%(標準偏差)はこの枠内に入りますよ」というものです。一種の目安であり、枠の外だから成長障害だというわけではありません(成長曲線には別方式もあります)。

こんなところにも、バラツキ具合を利用した統計学のツールが使われているんですね。

機械の不具合を事前に見抜け!

株価の動向、子どもの成長という「生活の中」での統計学の使われ方を見てきましたが、仕事の品質管理にも同じ統計手法が使われています。

株価や子どもの成長にバラツキがあるように、人間が何かモノをつくっても、そこにはバラツキがあります。たとえ最新鋭の機械で製造しても、バラツキは生じます。この バラツキの度合いを数値化したものが、先ほどから述べている「標準偏差」 でした。

次ページの図は、製品のバラツキ具合を示したものです。たとえば、10ミリと指定されたクギの長さが9.998ミリ、10.001ミリのように、製品に超微妙なバラツキが出ると考えてください。

わずかなバラツキで規定内であれば、「合格品」として出荷されるでしょう。

でも、さすがに2ミリも違うクギであれば「不合格品」としてはねられます。

上のグラフは、真ん中の太い青線が平均(標準品)で、その上下にそれぞれC、B、Aの区域があります。これはクギのバラツキ具合を表わしています。

バラついても、クギの約68%が上下のCの範囲に収まり、Bの範囲には約95%のクギが、そしてAの範囲内には99.7%のクギが収まります(この%は統計学でわかっています)。

前もって「機械の故障」が予測できる

このC、B、Aの範囲は、先ほどの「標準偏差」のレベル(1~3)を表わしていて、その外側へ飛び出すクギは稀ま れにしか出ないことを示し、おそらく、そのクギは不合格品(オシャカ)としてはねられてしまうことでしょう。

はねられないにしても、いちばん外側のAの枠に入る製品が3個も続けてつくられるとか、同じ側(上や下)で連続して9個も10個も出てくるとなると、機械の不具合や手順などにトラブルが生じ始めたことを示す〝 予兆 〞かもしれません。

そこで、 製品としては正常内のバラツキだとしても、このA~Cに入る個数が連続するようであれば、統計学の知識を利用し、「いったん機械を止め、検査してみよう」という判断に使うことができます。

実際、日本JIS規格では次ページの表のように、「目安」(ガイドライン)を決めています。これは業界やメーカー、製品によっても異なるのであくまでも目安にすぎませんが、バラツキ(標準偏差)を見て、機械の調子を判断しているのです。

品質管理でも正規分布曲線を横倒しに使っていることがわかりました。統計学を学んでいても、90度横倒しにしたボリンジャーバンドや品質管理グラフを見る機会はほとんどなく、同じものと気づかないかもしれません。

なお、ボリンジャーバンド、成長曲線、品質管理などの指標やグラフは「絶対に正しい」というわけではありませんが、統計学的に見て、リスクのレベルやその目安をあなたに教えてくれているのです。

統計学の素養を身につけていると、ビジネスで失敗を避けるチカラがつきますよ。

グラフとクイズで見えなかった世界が見えてくる すごい統計学

著者:本丸諒
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