年惜しむ

 辞書なのに説明が味わい深い「新明解国語辞典」(三省堂)で「年の瀬」を引いてみる。〈(それをうまく越せるかどうかが問題である)清算期としての年末〉。庶民がツケの支払いに追われたという江戸の昔の歳末を思わせて、味がある▲うまく越せるかどうか…と案じるほど差し迫ってはいないが、年の暮れは何かしら気ぜわしい。新年の準備を「年用意(としようい)」という。飾り気のない言葉だが、あれをしてこれをして、と慌ただしさが伝わってくる▲その一方で、年の瀬には去る人を見送るような、いくらかの寂しさもある。昔もまた、暮れの一刻一刻を名残惜しく思う人がいたのだろう。「年惜しむ」という季語を歳時記で見つけた▲海の向こうでは軍事侵攻という胸の詰まる事態が続く。コロナ禍で止まっていた社会が動き出したのは前進だとしても「収束」の2文字はまだ見えない。ほろ苦さをかみしめつつ2022年の背中を見送る▲新しいカレンダーを壁に掛けたり、置いたりするのも小さな「年用意」だが、今はまだ、手近な暦は表紙が付いたままになっている。名残惜しさから、あらたまの年の新鮮さへと、表紙をめくる頃には心も改まるのだろう▲〈初暦めくれば月日流れ初(そ)む〉五十嵐播水(ばんすい)。皆さんの新しい月日に、心の和む出来事が注がれますように。(徹)


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