W杯での奮闘は、日本代表の「人気復活」につながるのか。カギを握るのは三笘?本田?それともJリーグ?

2022年12月28日、日本サッカー協会は森保一監督の続投を正式発表した。

契約期間は2026年北中米ワールドカップまでとなり、同一監督がワールドカップ(以下W杯)後も継続して指揮を執るのは日本サッカー史上初となる。

カタールW杯では、グループステージでドイツとスペインを破り、ラウンド16で前回大会準優勝のクロアチア相手に善戦。下馬評を覆した手腕が評価されての続投となった。

もっとも、大会前は日本代表人気の低下が叫ばれていた。ドイツとスペインという優勝候補と同じグループに入り、これまで以上に厳しい戦いが予想されたこともあり、ポジティブな要素を見つけるのは難しかった。

しかし、初戦のドイツ戦で勝利すると風向きは変わる。“死の組”と評されたグループEを1位で突破した頃には、国民の関心事となっていた。惜しくも敗れたクロアチア戦からしばらく経った後、筆者はこう思った。

人々を熱狂させたサムライブルーの奮闘は、代表人気復活につながるのだろうか。

知名度抜群のベテランと“筆頭格”の三笘

話はさかのぼることカタールW杯の開幕前。筆者は普段サッカーを観ない友人たちと会話する機会を得た。

テレビの報道番組やヤフーニュース、Twitterで日本代表の動向を知る彼らに、現在の代表で認識しているメンバーを尋ねてみると、概ね同じような回答が返ってきた。

『ベテランの長友佑都、吉田麻也、川島永嗣は知っている』

『中堅・若手だと三笘薫、久保建英、堂安律ならわかる』

長きに渡って日本代表を支えてきた長友らベテランたちが抜群の知名度を誇り、プレミアリーグでの活躍も目覚ましい三笘が“中堅・若手”のカテゴリーでは筆頭格だった。

なお、三笘と久保はスポーツニュースでよく取り上げられているのが要因で、堂安はクレジットカードのCMに出演していることが大きいという。

その後、日本代表の試合がすべて終了したタイミングで改めて話を聞いたところ、浅野拓磨、田中碧そして前田大然が知名度を高めていた。3名ともゴール(浅野はドイツ戦、田中はスペイン戦、前田はクロアチア戦)を決めており、そのシーンが繰り返し報道されたことで自然と名前を覚えたようだ。

嬉しくなった筆者は遠藤航、鎌田大地、冨安健洋ら欧州の舞台で評価を高め、W杯でも主軸としてプレーした選手についても訊いてみたが、期待とは裏腹にリアクションは芳しくなかった。

特に遠藤に関しては、『以前活躍していた方(※保仁)なら知っているけど……』という回答だった。

そこで、遠藤保仁が司令塔として君臨していたザックジャパン(2010~14年のアルベルト・ザッケローニ体制)時代の主要メンバー(本田圭佑、香川真司、長谷部誠、岡崎慎司、内田篤人)を矢継ぎ早に確認してみると、『全員わかる』とその反応は一変した。

なぜ、ザックジャパンのメンバーは現在も知名度が高く、森保ジャパンは今ひとつなのか。

一番の要因は、「キャラの濃さ」だと考える。本田ら主要メンバーは強い個性と確かな実績を兼備し、サッカー界を超えた存在となっていた。森保ジャパンも実績ではいい勝負ができるかもしれないが、やはり個性という面では劣っているだろう。

しかし、「キャラの濃さ」という意味で、第二次森保政権は期待できる点が多い。カタールW杯で結果を残した三笘と堂安は看板選手になるだろうし、久保含むパリ五輪世代(U-22代表)とU-20代表は個性的な面々が揃う。

ルーキーイヤーから主力としてフル稼働した松木玖生、スケールの大きさを感じさせるチェイス・アンリと鈴木彩艶、かねてより注目されてきた中井卓大、10代でドイツ挑戦を決意した福田師王と福井太智といった逸材たちが日本の将来を背負うはずだ。

彼らの活躍が代表人気の復活と維持を左右すると言っても過言ではない。

話題を呼んだ本田圭佑の解説

カタールW杯で日本代表の躍進とともに話題を呼んだのが、本田圭佑氏の解説だ。

かつてエースとして日本代表をけん引し、W杯では3大会連続でゴールを記録するなど大一番で抜群の勝負強さを誇った本田氏。

2022年3月に「ABEMA FIFA ワールドカップ 2022 プロジェクト」のGM(ゼネラルマネージャー)に就任することが発表されると、同局が放送した日本代表戦の計4試合と準決勝(アルゼンチンvsクロアチア)および決勝で解説を担当した。

一部選手を“さん”づけで呼び、情熱と冷静が同居した語り口と相手の弱点をズバッと指摘する率直な物言い、自国の選手に寄り添い鼓舞するのが伝わるコメント、そして『ナナフゥン!?』『ペリシッチ嘘つくなや!』といったキラーワードの数々で視聴者を楽しませた。

まさに新感覚の解説で、『本田が解説だから(地上波ではなく)ABEMAで観よう』と思った方も多かったはずだ。事実、同局が発表した「総合視聴ランキング」のトップ5のうち、日本代表戦が4試合を占めている。

このように好評を博したが、当の本人は自身のYouTubeチャンネルにおけるライブ配信で、今後の解説業継続について否定的なスタンスを示している。再登板の可能性はゼロではないものの、現時点ではかなり低いと言わざるを得ないだろう。

とはいえ、全64試合のリアルタイムおよび見逃し配信を実施し、W杯の盛り上げに多大な貢献をしたABEMAと自由な解説で時の人となった本田氏のタッグは、日本代表戦の注目度アップを大いに実現した。

ABEMAが2026年大会でも生中継を実施するのか、あるいは本大会だけではなく大陸予選や親善試合、そのほか国際大会も放送していくのか。同局の方針が国民のサッカー熱に作用する。

そして、再び本田氏が解説を務めることがあれば、サッカーファンはもちろん、普段サッカーを観ない層にもアピールできるに違いない。

W杯後のJリーグは盛り上がるか?

ここからは、角度を変えて考察してみたい。

4年に一度の大イベントであるW杯が閉幕し、2023年2月17日に今年度の Jリーグが開幕する。

W杯で高まったサッカー熱の行き先は、海外組が出場する欧州各国のリーグ戦または国内組と次の日本代表候補がプレーする Jリーグとなる。 Jリーグ側も果たすべき役割を理解しており、以下のプロモーション動画で関心を高めようとしている。

しかしながら、海外組がチームの大半を占める今、日本代表の奮闘が Jリーグの盛り上がりに繋がるかは難しいところである。

普段サッカーを観ない層がW杯をきっかけに“サッカーそのもの”に興味を持ったなら、『次は Jリーグを観てみよう』となるはずだ。だが、“日本代表”に興味を持った場合は……。答えは自ずとわかるだろう。

一方で、娯楽すなわちエンターテインメントとしての Jリーグは存在価値が高い。筆者が以前にアルビレックス新潟の試合を現地取材した際に、その意義を強く感じた。

デンカビッグスワンスタジアムでの取材を終えた筆者は、新潟駅まで移動するためタクシーに乗車した。運転手の方は物腰が柔らかそうな50代くらいの男性で、フランクに話しかけてくれた。

地元の名産を紹介していただくなど会話が弾むなか、運転手がこぼした言葉が今も記憶に残る。

『私たち新潟県民にとって、アルビレックスは娯楽のひとつ。(チームが)勝とうが負けようが、スタジアムに足を運ぶんです』

新潟というクラブはサポーターの応援が熱く、スタジアムが大観衆で埋まることで知られる。スタジアムに向かう理由は人それぞれだが、“サッカーという娯楽を楽しむ”という目的も確かに存在しているだろう。

話を戻すと、「日本代表と Jリーグは別物」というドライな結論が浮かび上がる。その結論を受け入れ、割り切って、日本代表の注目度を上げるためにJリーグをどのように活用していくか考える。

浮かんだのは、「Jリーグが日本代表へ戦力を供給する場である」という見方だ。プロとして勝ち負けを競う場であるのは重々承知のうえだが、代表選手を育成する場という側面もあるはずだ。

Jリーグから海外へ選手たちが羽ばたき、行く先々で成長を遂げ、それが日本代表の強化につながる。その意味で、チェイス・アンリと福田師王という超高校級のタレントが、Jリーグを経由せず海外へ渡ったという事実は重く受け止める必要がある。

これまでも同様のケースは存在しており、決して彼らの考え方を批判している訳ではない。ただ、Jリーグの存在価値を高めるには、プロ入りに際して海外クラブに負けない魅力を持たなければならない。

人々を熱狂の渦に巻き込む娯楽としての存在意義と並行して、代表選手を育成する場としても存在感を示す。 Jリーグ開幕から30周年を迎える記念のシーズンが、重要な分岐点となり得る。

代表人気の復活と維持に必要なのは……

ここまで、「カタールW杯での奮闘は、日本代表の人気復活につながるのか?」というテーマで筆を進めてきた。

代表人気復活のカギを握るのは、三笘薫ら新たなアイコンかもしれない。本田圭佑または同氏に匹敵するカリスマ性を持った解説者かもしれない。それとも、開幕から30周年を迎える Jリーグかもしれない。

これらの要因に加えて重要となるのが、「日本代表の勝利」だ。今回のW杯でも、ドイツとの初戦で白星を挙げたことにより風向きが変わった。仮にドイツに敗れていたら、ここまで日本中が熱狂していただろうか。

代表人気の復活と維持に必要なのは、何よりも勝利なのである。

冒頭でも触れた通り、日本サッカー協会は森保一監督の続投を正式発表した。このリリースに先立って、2023年度の活動スケジュールが発表されており、3月のキリンチャレンジカップ(東京と大阪で開催)が第二次森保政権の初陣となる。この2試合に対する注目度は非常に高いものとなるだろう。

そして、11月から2026年北中米W杯のアジア2次予選が開催されるが、今の日本代表に求められるのは、大事なゲームで勝ち続けて期待感を醸成することだ。

次回W杯の出場国が32から48に拡大されることに伴い、アジアの出場枠が4.5から8.5に増加される。チャンスが増えたことにより、これまでW杯に縁がなかった国も目の色を変えて戦ってくるはず。

カタールW杯の最終予選で苦戦したのは記憶に新しいが、おそらくマイボールの時間が長くなる展開でしっかり得点と勝ち点を奪い、無事に本大会出場を決めるのが使命だ。

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森保監督が引き続き指揮を執る日本代表は、「引いた相手の崩し方」「セットプレーの精度」「PK戦の勝負強さ」という課題と向き合いながら、“新しい景色”を見るため邁進していく。

だが、そのストーリーの賞味期限は2026年かもしれない。ハードルが上がった今、最低でもベスト8に到達しなければ失敗とみなされる可能性があるからだ。

絶望感とともに代表人気が低迷する未来だけは、絶対に避けなければならない。

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