世界各国で研究が進められている認知症、発症や進行を遅らせる習慣とは?

年齢とともに有病率が高まる認知症ですが、習慣や運動などにより発症や進行を遅らせることができるそうです。

そこで、長寿日本一の入居者がいる老人ホームの施設長・柴谷匡哉 氏の著書『施設長たいへんです、すぐ来てください!』(飛鳥新社)より、一部を抜粋・編集して認知症にかかりにくくなる方法を紹介します。


30分程度の昼寝で 認知症予防の可能性が

認知症に関する社会的関心は国内のみならず世界的に高まっており、各国でさまざまな研究が進められています。現代の医学では認知症を完璧に予防することは難しいのですが、危険因子に対する対策・管理によって認知症の発症や進行を遅らせることは可能です。

世界的な医学誌「ランセット」の国際委員会が2020年に「認知症の12の危険因子」を発表し、「教育」「難聴」「高血圧」「肥満」「喫煙」「うつ病」「社会的孤立」「運動不足」「糖尿病」「過度の飲酒」「頭部外傷」「大気汚染」などのリスク要因を改善することで、認知症の発症を遅らせたり、発症を約40%ほど予防する効果が期待できると報告しました。現段階では、決定的な認知症の予防方法は確立されていませんが、有効性を示す証拠が集積されつつあります。

ここでは、私が認知症予防講演会でお勧めしている習慣について紹介したいと思います。

まず、昼寝です。

適度の昼寝をすると、午後からの仕事や勉強の効率が高まることは知られていました。それだけでなく、国立精神・神経医療研究センターの研究データでは、適切な時間の昼寝はアルツハイマー型認知症の発症リスクを5分の1に下げることが報告されています。

時間的には30分程度が良いとされています。寝ているときに脳の老廃物が取り除かれリセットされます。一方で睡眠不足になると、アルツハイマーの原因とも言われるアミロイドβなどが除去できず蓄積されるようです。

ただし、長時間の昼寝はアルツハイマー型認知症の発症リスクを上げることがアメリカの研究チームによって明らかになりました(※1)。それによると1日1時間以上の昼寝をする人は、そうでない人と比べて1・4倍もアルツハイマー型認知症リスクが高かったそうです。

私の講演会で聞いてみても、昼寝を習慣とする人は多くいらっしゃいます。問題は時間です。どれくらい昼寝しますかと聞くと、1時間以上寝られる方が多くいらっしゃいます。適度な昼寝は認知症予防に役立ちますが、あまり寝すぎると夜寝られなくなると共に、認知症のリスクが上がるので、長い昼寝はくれぐれも厳禁です。

ぜひ皆さんも、30分程度の昼寝の習慣を持ってアルツハイマー型認知症の予防を心がけてみてください。

(※1)T Asada,et al. Associations between retrospectivelyrecalled napping behavior and later development of Alzheimer's disease: association with APOE genotypes.Sleep.2000 Aug 1;23(5):629 34.

過剰飲酒は認知症のリスクを高める

大量に飲酒をする人やアルコール依存症の人は、認知症の発症リスクが高いことがわかっています。一方で少量ないし中等量の飲酒は認知症の原因にはならないのみならず、認知症の予防になる可能性があります。

認知症には、主なものとして、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つがあります。そしてその他にも、さまざまな種類があります。

そのうちの一つが、アルコール性認知症です。飲酒量や日頃のライフスタイルも影響しているアルコール性認知症は、高齢者だけではなく、若い世代にとっても無関係ではありません。

アルコール性認知症はその名の通り、アルコールの大量摂取が原因と考えられる認知症のことを言います。大量に飲酒する人やアルコール依存症の人には、高い割合
で脳萎縮がみられることがわかっていて、認知症になるリスクを高めることにつながります。また糖尿病や脂肪肝、肝硬変、脳卒中等の病気を介して認知症を引き起こすことも考えられます。

一方、少量の飲酒は全く飲まない場合と比べて認知症の発症リスクが低く、日本では国の健康施策「健康日本21」で適切とされている1日のアルコール量は、以下のように定義づけられています(なお、以下のg数は、1日あたりの純アルコール量をあらわします)。

【1日の純アルコール量の適正目安】
・男性: 20 g
・女性:男性の3分の1~2分の1

【1日の純アルコール量の過剰摂取目安】
・男性:40g以上
・女性:20g以上

純アルコール量20g程度の飲酒量の目安は、以下の通りです。

【純アルコール量20gの目安】
・日本酒1合(180ml)
・ビール500ml
・ワイン240ml
・焼酎(25度)110ml
・ワイン180ml

この中でも、赤ワインは認知症の予防効果があると指摘されています。理由は、赤ワインはブドウの皮ごと醸造しているので、皮に含まれるポリフェノールレスベラトロールが脳の老化防止に役立つからです。

私の行っている認知症予防講演会でもこのことを述べていますが、必ず出る質問があります。

「白ワイン好きの人はどうしたらいいですか?」

その場合は白ワインと一緒にブドウの皮をかじれば、赤ワインと効果が一緒になりますのでお試しを。

腸内環境を整えて免疫力をアップ

腸内環境を整え、腸の健康を保つことは、免疫力や睡眠の質の向上、糖尿病・がん・認知症といった疾患の予防にもつながる可能性があると明らかとなってきました。

ヨーグルトや乳酸菌飲料などの発酵食品が免疫力を高めるという話や、なんとなく「善玉菌」が体に良くて「悪玉菌」が体に悪いという話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

腸内には免疫細胞だけでなく細菌もたくさん存在しています。個人差はあるものの、約1000種類、100兆個以上もの細菌が腸内に住み着いていると言われ、この腸内細菌の群生がいわゆる腸内フローラです。腸内フローラのバランスが保たれていると、免疫力にも良い影響を及ぼします。

一方で、腸内環境が崩れると、アレルギー症状や自己免疫疾患などが生じることもあります。免疫細胞は骨髄の中で生まれて血液やリンパ液を通って全身を巡っていますが、その免疫細胞の約70%は腸に存在しています。

言うなれば、お腹の中は免疫力を上げる大きな工場です。この工場をパワーアップする力を持っているのが乳酸菌と考えてください。特に、おなじみのヤクルトに含まれているLカゼインシロタ株は、その効果が医学的に証明された乳酸菌の一つです。

日々、乳酸菌やビフィズス菌、発酵食品、食物繊維等の良いものを口に入れ、腸を鍛えトレーニングする「腸トレ」を習慣化することによって、脳も元気にしながら認知症予防をしていただきたいと思います。

施設長たいへんです、すぐ来てください!

著者:柴谷匡哉
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