命にかかわる病気を引き起こすリスクがある「慢性炎症」とは?

最近、「体調が悪いな」「急に年をとった気がする」などと感じている方は、隠れ炎症(慢性炎症)が原因かもしれません。

日本病巣疾患研究会副理事長で医師の今井 一彰( @imakazu )氏の著書『名医が教える 炎症ゼロ習慣 ~体内年齢が10倍若返る~』(飛鳥新社)より、一部を抜粋・編集して炎症が引き起こす病気について解説します。


「老化」や「病気」は炎症がつくり出す

炎症というと、みなさんはどんな状態をイメージしますか?たとえば「風邪で、のどが赤くなって、つばを飲み込むと痛い」「ハチに刺されたところが、赤く腫れてズキズキ痛む」などが、多くの人が考える一般的な炎症の症状でしょう。

このような症状はそのときはつらいものですが、ほとんどが一時的なもの。徐々におさまって、ほとんどが元通りに治ります。

ところがなかには、体の同じ部分で、長い期間、炎症が続いてしまうことがあります。この「長引く炎症」はさまざまな病気と関係があることがわかってきました。

炎症が続くと、細胞や血管が傷ついて、劣化していくため、病気を引き起こしてしまうのです。この長く続く炎症は、体のどこでも起こる可能性があり、全身の多くの病気の原因になります。

たとえば、がんや心筋梗塞、脳梗塞、認知症、糖尿病などの生活習慣病、肝炎、喘息、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、アトピー性皮膚炎、うつ病などの病気は、長引く炎症が原因になっていると考えられています。

また、長引く炎症は「老化」とも関係しています。「このところ、老けてきたな」と感じたら、体内で炎症がくすぶっているサインかもしれません。炎症が続いて肌の細胞が傷つけばシミやシワができたり、肌がたるみます。頭皮の炎症が続けば、抜け毛や白髪の原因にもなります。

「年だからしょうがない」と思っていた症状も、実は、炎症によって老化が加速して起こっていることがあるのです。

すぐに治る炎症と体をいじめ続ける炎症

風邪のときののどの痛みや虫刺されの症状のように、一時的に起きる炎症を「急性炎症」と言います。風邪で熱が出るのも、ねんざをして患部が腫れて痛むのも、急性炎症の症状です。

こういった急性炎症の典型的な症状は4つあります。それが、「発赤(赤くなる)」「腫張(腫れる)」「発熱(熱が出る)」「疼痛(痛みがある)」で、これを炎症の4徴候と言います。ハチに刺されると、赤く腫れて熱を持ち、ズキズキ痛みますが、これはまさに炎症の4徴候です。

体を守るための「急性炎症」

なぜ、このような炎症症状が起こるのかというと、体に侵入してきた細菌やウイルス、毒素などの異物を退治して、傷ついた細胞を修復するためです。

ハチに刺されたときを例にとって説明しましょう。

ハチに刺されると、ハチの針から皮膚の中にハチ毒が注入されます。すると、その刺激によって血管が広がって血流が増えたり、血管壁の透過性が高くなったりします。それは毒素を排除するために必要な免疫細胞(白血球など)や傷を治すために必要な物質(血漿たんぱく質など)を、血液に乗せて患部に運ぶためです。

結果、ハチに刺された部分に血がたまり、運ばれてきた細胞や物質もたまるので、傷の周辺が赤くなって熱を持ったり、腫れたりするのです。

また、炎症が起こると痛みを引き起こす物質が出て、傷が痛みます。痛みや腫れは、私たちに「体が大変なことになっていますよ」と、危険を知らせるシグナ
ルの役目も果たしています。

以上のように、炎症は本来、体を守ろうとする、正常な免疫反応なのです。そのため、傷ついた細胞が治れば、炎症もおさまります。風邪の症状も、虫刺されの腫れも、一定期間を過ぎれば自然と元通りに治りますよね。

長引く「慢性炎症」が病気を引き起こす

ところが、炎症の原因となる物質が除去できず、炎症がおさまらずに、いつまでもダラダラと続くことがあります。こういった長引く炎症のことを「慢性炎症」と言います。これこそが本書のテーマです。

本来は、体を守るために起こるのが炎症ですが、長引けば細胞の修復が追いつかず、体の機能が低下したり、失われたりしてしまいます。

たとえば、慢性炎症をともなう病気のひとつが、冒頭でもご紹介した歯周病です。

歯周病は口の中の歯周病菌が原因の感染症。歯周病菌が徐々に増殖して、歯ぐきにゆっくりと炎症が起きる病気です。初期の段階で炎症がおさまることもありますが、歯ぐきの炎症が続いて慢性化することも多く、その状態を放っておくと歯を支える骨にまで炎症が広がります。その結果、骨が溶けて、歯がグラグラになり、最悪の場合、歯を失うことになるのです。

コロナ後遺症も慢性炎症が原因だった?

慢性炎症は、急性炎症がきっかけで始まることもあります。

風邪が原因でのどに急性の炎症が起こった場合、風邪が治ればのどの炎症はおさまります。けれど、喫煙や飲酒、大気汚染などにより、のどの急性炎症を繰り返していると、炎症がくすぶり続け、慢性上咽頭炎や慢性扁桃炎を引き起こします。

同じ場所に何度も異物による刺激が加わって、何度も炎症を起こすうちに、炎症が慢性化してしまうのです。

実は、コロナ後遺症も、慢性炎症が関係しているのではと考えられています。

通常は、コロナウイルスに感染して急性炎症が起き、免疫細胞がウイルスを退治できれば炎症がおさまり、体が回復しますが、なんらかの理由で炎症が慢性化してしまうと、ウイルスが検出されなくなっても、体調不良が続いてしまうのです。

私のクリニックにも、コロナ後遺症だと思われる症状の患者さんがたくさんいらっしゃいますが、倦怠感や息切れ、ブレインフォグ(頭に霧がかかったようにぼんやりしてしまい集中できない、普段はしない物忘れをするなどの症状)、微熱、嗅覚や味覚の異常、うつ症状など、症状は人それぞれです。

このほか、アトピー性皮膚炎やアレルギー疾患、関節リウマチなどの「自己免疫疾患」と言われる病気も慢性炎症による病気です。

本来、体を守るはずの免疫機能が自分の体までも攻撃してしまい、長期間、炎症が続いてしまって発症します。

慢性炎症は「静かなる殺人者」

この章のはじめにもお伝えした通り、慢性炎症によって起こる病気はさまざまにあります。

まさに「炎」のようにボッと勢いよく燃えて鎮火も早いのが急性炎症なら、慢性炎症はボヤ(小火)のようなもの。火種がくすぶったままじわじわと広がるように体をむしばみ、最後にはおそろしい病気を引き起こします。

慢性炎症による病気のこわいところは、急性炎症のように強い症状がないところです。

そのため、なんとなく調子が出ないなと感じることはあっても、ほとんどの場合、自分では気がつきません。

自覚症状がないまま同じ場所で炎症が続いてしまって、いつのまにか細胞が壊され、臓器や血管などの機能が低下してからはじめて病気になっていることに気づくのです。

先ほど例にあげた歯周病も、たまに出血したり、患部がうずいたりすることはありますが、初期には自覚症状がないことがほとんどです。歯周病が進行して、歯がグラグラになってから気づく人も少なくありません。

このほか、次に紹介する病気も慢性炎症が原因のもので、気づかないうちに進行して、命にかかわるような病気につながるリスクがあります。

そのため、慢性炎症は、「サイレントキラー」と呼ばれることもあります。

肝炎→肝硬変・肝臓がんに

肝臓の炎症が6か月以上続いている状態を「慢性肝炎」と言います。その原因としていちばん多いのは肝炎ウイルスです。B型、またはC型肝炎ウイルスに感染すると、一時的な炎症(急性肝炎)で治ることもありますが、治りきらずに長引いた場合、慢性的に炎症が続くことがあるのです。

このほか、アルコールや食生活の乱れ、運動不足などの生活習慣が原因になることもあります。

肝臓で慢性的な炎症が起こると、肝臓の細胞が壊される→修復される→壊される→修復される……と破壊と再生が繰り返されることになります。すると、細胞が正常に修復されず、線維成分が蓄積して「線維化」が起こります。

結果、肝臓の組織の柔軟性が失われて硬くなり、肝臓の機能が低下することに。

これが肝硬変です。肝硬変になると、肝がんを発症しやすくなることもわかっています。

慢性胃炎→胃がんに

おもにピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)によって起こる「慢性胃炎」は、その名の通り慢性炎症による病気のひとつです。

多くの場合、ピロリ菌は子どものころに感染すると言われていますが、感染すると多くの人は胃炎を発症します。けれども、そのとき自覚症状がある人はほとんどいません。

胃炎というと、胃がキリキリ痛んだり、胸焼けや吐き気が起きたりといった症状を思いうかべるかもしれませんが、それは暴飲暴食やアルコールのとりすぎなどによって起こる急性胃炎(急性炎症)です。

ピロリ菌による慢性胃炎の場合は、胃もたれやむかつきなどの症状が出ることもありますが、強くなかったり、人によっては症状がないこともあるのです。

自覚症状がないなどの理由で、慢性胃炎の状態を放っておくと、慢性肝炎と同じように胃の粘膜の組織が変化して、うすくやせて萎縮する「萎縮性胃炎」になることがあります。さらに、胃粘膜の萎縮が進むと、そこががん化して胃がんになる人がいることもわかっています。

動脈硬化→心筋梗塞→脳梗塞に

動脈硬化は、弾力があってしなやかな血管が、硬くもろくなることです。新品のホースはやわらかく弾力がありますが、古くなったホースが硬くなって破れてしまうようなものですね。

いままでは、血管の中に過剰な脂質がたまることが原因とされてきましたが、最近では、慢性炎症がその発症や悪化に関係していることがわかってきました。

内臓脂肪型肥満などによって血管に慢性炎症が起こると、血管の壁が傷つき、そこにコレステロールが入り込みます。すると、これを排除するために白血球が集まってきて、コレステロールを食べます。

結果、コレステロールを食べて死んだ白血球の死骸と、残ったコレステロールがたまって、血管壁にコブ(プラーク)ができてしまいます。このとき、血管の線維化も起こって、血管が硬く、柔軟性がなくなってきます。

慢性炎症が続けば、血管にできたコブは大きくなり、動脈硬化が進行していきます。最終的にプラークが破裂すると、その傷口を修復するために血液の塊ができて、それが血栓となり、血管をつまらせてしまうことに。これが心臓で起これば心筋梗塞、脳で起これば脳梗塞となってしまうのです。

慢性炎症が、知らず知らずのうちに、命にかかわるような病気を引き起こすリスクがあることをご理解いただけたでしょうか?

慢性炎症は、体の機能を低下させるため、すぐに病気にならなかったとしても、体の調子を悪くする原因にはなります。

医療施設では「どこも悪くない」と言われても、「なんとなく調子が悪いんだよな……」と感じたら、あなたの体の中では慢性炎症が悪さをしているのかもしれません。

名医が教える 炎症ゼロ習慣

著者:今井一彰
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