「結婚した夫と付き合うきっかけになった一冊」思い出が価値になる本屋さん 「古本交換」で人つなぐ 沖縄・名護

 【名護】本と共に思い出を「交換」する一風変わった古本屋が、名護市宮里のコミュニティーパーク「coconova(ココノバ)」にある。その名も「思い出書店」。取り扱うすべての本に、前の持ち主の思い出が書かれた帯が巻かれている。店主の森石豊さん(37)は「思い出」という古本ならではの価値に着目。書店を通して、新たな人や本とのつながりを創出したい考えだ。

 書店は無人。思い出を書く帯にあらかじめ記載されている、固有のIDナンバーと、持ってきた本のタイトルを登録。手にしたい本のIDを入力することで交換ができる。本は売り物ではないため、交換による代金はかからない。本の貸し出し履歴の閲覧も可能。

 岡山県出身の森石さんは約2年前に東京から沖縄に移住した。小さいころから大の本好きだ。街で古本屋を見かけないのが寂しくて、フリーマーケットで蔵書を販売した。自らの思い出などを交えながら、客と対話し本を紹介し、代金として「1冊500円+気持ち分」をもらっていたところ、お客さんの反応が良く、数千円、中には1万円を払う人もいたという。「新書で買うより高く売れることもあった。持ち主の思い出を伝えることで価値に変わるんだな」と考えた。お客さんの思い出も聞きたいと考え、現在に至る。

 「大人の恋愛を教えてくれました」「ぐるぐる悩んで寝れない夜にページをめくってみると心を救ってくれる文章に出合えるかも」。書店に並ぶ本の帯には持ち主の思いが手書きでつづられている。いつもは読まない分野の本でも思わず手に取ってしまう人もいるという。住野よるさんの「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」の帯には、「結婚した夫と付き合うきっかけになった一冊」と書かれている。帯を書いた女性が夫と子ども3人で来店。森石さんは本が人と人を結び付ける力があると実感したという。

 森石さんは「帯に書かれている思い出には持ち主の内にある素直な言葉が詰まっている」と指摘。「ありのままの人同士を認め合い、つながっていく、本当の意味でのソーシャルネットワークのような形が本の交換を通して広がっていけばうれしい」と語った。思い出書店の問い合わせはomoide@studioeurygraph.com、インスタグラムomoide_books75では書店に並んでいる本と帯が紹介されている。

 (長嶺晃太朗)

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