罪繰り返す「累犯障害者」支援の“先進地” 長崎刑務所 モデル事業始動の背景

「累犯障害者」支援を巡る主な動き

 長崎刑務所(諫早市)に知的障害(疑い含む)のある受刑者を集め、特性に応じた処遇をする-。全国展開を見据えた法務省のモデル事業が本県で始まった背景には、罪を繰り返す「累犯障害者」の更生に向け、社会福祉法人南高愛隣会(同市)を中心に、司法と福祉が連携した各種モデル事業を実践し、国の支援の枠組みを構築してきた「先進地」としての歴史がある。
 生きづらさを抱えながらも福祉の「網」からこぼれ落ち、万引や無銭飲食など軽微な犯罪を重ね、刑務所を行き来する累犯障害者。その存在を世に知らしめさせたのは、秘書給与詐取事件で逮捕された元衆院議員、山本譲司氏が服役中の経験をつづった「獄窓記」(2003年)だった。「刑務所が障害者の受け皿になっている」。福祉関係者を驚かせ、国に対策を迫った。
 06年、「累犯」問題の実態を調べる厚生労働科学研究班が発足。代表者に就いたのは、本県で先駆的な福祉を実践する南高愛隣会の当時の理事長、田島良昭氏(21年に76歳で死去)だった。研究班は全国15カ所の刑務所の受刑者約2万7千人のうち、410人に知的障害(疑い含む)があるとの実態調査結果を公表。約7割が再犯者で、その多くが生活の糧や帰る場所がない厳しい現実を社会に突き付け、衝撃を広げた。
 09年、累犯障害者らを刑務所出所時に福祉的支援につなぐ国の特別調整制度がスタート。刑務所内への社会福祉士の配置も進み、帰住先の調整など保護観察所との連携が強化された。研究班が06~08年度で取り組んだモデル事業を土台に、出所者を福祉サービスにつなぐ「地域生活定着支援センター」が本県を皮切りに全都道府県に設立され、「出口」支援の枠組みが整った。
 「出口」だけでなく、研究班は09~11年度、捜査や裁判段階での「入り口」支援についてのモデル事業も実践。11年に始まった検察改革で、東京地検への社会福祉士配置など刑事政策に福祉的な視点を取り入れる大きな転機となったが、入り口支援の仕組みづくりはまだ途上だ。
 長崎刑務所は19年に「社会復帰支援部門」を新設。南高愛隣会と包括的共同支援協定を結び、刑務官が福祉の現場で研修を受けている。今回のモデル事業では、専門的な知見を有する南高愛隣会が施設内の処遇に深く関わることで再犯防止と社会復帰の支援をさらに推進する。改善更生に力点を置いた昨年の刑法改正の理念とも合致する。
 「累犯」問題に詳しい龍谷大法学部の浜井浩一教授(犯罪学)は「刑務所では社会との関係性が絶たれ、ロボットのように指示に従う生活で、社会適応能力が落ちる。社会復帰後の生活につながっていない」と指摘。「刑務所内の処遇は最後に残された最大の問題。南高愛隣会が中に入り、再犯防止という目標を共有し、一貫して社会復帰を支援する意義は大きい」と語った。


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