CSISシミュレーション 中国を撃退する“4つ”の条件|和田政宗 1月9日、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が、中国による台湾侵略シミュレーションの結果をレポートにして発表した。24通り中22回は中国を台湾から撃退することができたが、では残りの2回は何なのか。

「ウクライナモデル」では中国を撃退できない

1月9日、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が、中国による台湾侵略シミュレーションの結果をレポートにして発表した。2026年に中国が台湾を侵略すると想定し、24通りのシミュレーション中22回で台湾は中国に奪取されず撃退できるという結果になった。

非常に重要なシミュレーションであり全文を読んだので、そのポイントと私の考えを記していきたい。まず、このCSISのレポートでは中国を撃退するのに必要な条件として次の4つを挙げている。
①台湾が領土を守るために強く抵抗すること。
②⽶国は数⽇以内にその能⼒を最⼤限に発揮して台湾救援のため参戦すること。
③⽶国が⽇本国内の米軍基地を使⽤できること。
④⽶国は⼗分な数の空中発射型⻑距離巡航ミサイルを持っていること。

そして、台湾有事の際の米国の関与のあり方として、「ウクライナモデル」では中国を撃退できないと述べている。

ロシアのウクライナ侵略において米国が取っているような行動ではなく、平時には⽶国は台湾と協⼒して台湾に必要な武器を提供し、台湾が中国による侵略を受けた場合は、米国は迅速に直接戦闘に参加しなければならないと分析し提言している。

さらに、米国は多数の死傷者が出ても作戦を継続する必要性を認識することが重要であり、3 週間で⽶国はイラクとアフガニスタンでの 20 年間の戦争の約半分の犠牲者を出すことになるとしている。中国のA2/AD能力(接近阻止/領域拒否能⼒)は⼿ごわいものになっていると分析し、特に中国⼈⺠解放軍ロケット軍を⼿ごわい戦⼒として挙げている。

また、日本については、国内の自衛隊基地または⽶軍基地が攻撃された場合にのみ、戦争に参加する可能性が最も⾼いというのが基本的なケースであると述べている。台湾救援のために自衛隊が参戦した場合、その被害が多大になることも述べられている。

中国が勝利し台湾を占領する条件とは何か

このシミュレーションでは24通り中22回は中国を台湾から撃退することができたが、では残りの2回は何なのか。これは、中国が勝利し台湾を占領するというもので、1つは、米国が台湾救援のため参戦しなかった場合。もう1つは、日本が中立し米国に日本国内の米軍基地を使わせない時である。

私はこれまでも台湾有事はイコール尖閣有事であるということを述べてきた。中国は「尖閣は台湾の一部であるから中国のものである」と荒唐無稽な主張をしており、台湾侵略と尖閣侵略は同時に行われると考えているからだ。この場合、日本は自国領土である尖閣防衛のため中国との戦争に突入することになる。

そうなれば中国は台湾を占領できず敗れるわけで、尖閣を攻撃されても日本が反撃しないような世論工作や、日本に日本国内の米軍基地を使わせない世論工作が中国により行われる可能性が極めて高いと思っている。中国もこうしたシミュレーションは行っているわけで、すでに世論工作は進んでいると考えたほうが良い。

抑止を前面に掲げ、敵基地反撃能力を保有するという歴史的大転換を行った安保3文書については、中国外務省の汪文斌報道官が「中国の脅威を誇張することで、自らの軍事力強化と武力拡張の口実を作る企てが目的を達することはない」と非難したが、国内の一部主要紙やSNSにおいても、安保3文書改定で「日本は戦争をする国になる」と、中国の主張と同じような発信が見られる。

毎日新聞の主張は中国の主張そのもの

元日から始まっている毎日新聞の特集連載記事『「平和国家」はどこへ』はかなり中国寄りである。1回目の記事では、「日台に軍事連絡ルート」との見出しで、自衛隊と台湾軍が直接やりとりできる連絡体制ができていることを、毎日新聞の取材で日本政府高官が認めたとしている。

私はこの記事は、抑止力が高まる等の肯定的な結論になるのかと思って読み進めたら、そうではなかった。Yahooニュースなどで配信された記事では、「日台の防衛当局が連携を強化すれば、中国が激しく反発し、かえって東アジアの安全保障環境を不安定化させることにつながりかねない」と締めくくっている。

この主張はまさに中国の主張そのものであり、SNS上でも反発の声が広がった。毎日新聞もさすがにまずいと思ったのか、ネット配信分の記事は削除され、現在は見られなくなっている。

中国はSNSにおいても工作を進め、日本に厭戦ムードを作り出すことを目指すであろう。日本国内の米軍基地を使わせないだけでも勝利につながるのであるから、世論工作でそれができるのなら中国にとってこれほど得なことはない。

こういった調略、情報工作には中国はその歴史が始まって以来たけており、日本を含む世界各国でSNSのみならず直接的な働きかけを行っていることが明らかになっている。

我々は中国から情報工作を受けているということを認識することが重要であり、事実と違うものについては私も正確な情報を発信して対抗していきたい。中国の台湾侵略が迫る中、我々は断固台湾を守ることを明示し、日台の交流、日米台の連携を強めていくことが中国による侵略への抑止につながる。

そして、どんな状況になっても日本は台湾を守り、アジアの平和を守るという強い意志を持ち続け、そのための能力を整備していくことが必要だ。しっかりと実現していきたい。

著者略歴

和田政宗

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