飲食業の休廃業・解散が過去最多 デリバリー・持ち帰りが早くも苦戦

 2022年の「飲食業」倒産(負債1,000万円以上)は522件(前年比19.4%減)と約2割減少した。コロナ禍で混乱した2020年は過去最多の842件を記録したが、その後は2年連続で減少し、2022年は過去20年間で最少件数を更新した。
 手厚いコロナ関連支援は、確かに飲食業の倒産抑制に大きな役割を果たした。だが、実際に街を歩くと、コロナ前に比べて空き店舗やテナント募集の貼り紙が目立つ。
 このギャップこそ、「休廃業・解散」の波が押し寄せる飲食業の苦境を映している。

飲食業の「休廃業・解散」が過去最多

 倒産は大幅に減少したが、2022年の飲食業の休廃業・解散は過去最多の1,899件にのぼった。
初の緊急事態宣言で多くの飲食店が苦境に陥った2020年の1,733件を1割近く上回ったことになる。
 倒産と休廃業・解散の件数を合計すると、2022年は2,421件で、2020年の2,575件、2019年の2,433件に次ぐ3番目の高水準になる。倒産に至る前に、暖簾を下ろして市場から退出する飲食業者は少なくない。
 2020年は前年までの人手不足に加え、新型コロナ感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言の発令で、飲食業の倒産は過去最多の842件、また休廃業・解散も過去2番目に多い1,733件に増えた。
 時短・休業要請が長期化したが、一方で持続化給付金やゼロ・ゼロ融資など各種支援が行き渡った2021年は倒産が648件(前年比23.0%減)に減少し、休廃業・解散も1,642件(同5.2%減)にとどまった。多くの飲食業者が支援策に支えられ、事業継続の判断を先送りした可能性が高い。
 だが、2022年の飲食業はコロナ支援が終了・縮小した一方で、感染拡大は収束の兆しを見せなかった。コロナ禍での生活様式の変化も定着し、客足はなかなか戻らず再び厳しい状況に置かれた。
 飲食業の苦境は東京商工リサーチ(TSR)が同年12月に実施したアンケートの結果にも表われている。売上がコロナ禍以前(2019年11月)の水準に届かない飲食業者は80.7%を占め、全業種の平均(52.9%)を30ポイント近く上回った。
 こうした状況でも休業協力金など、他業種と比べて手厚かった支援のおかげで倒産は522件(前年比19.4%減)と、2年連続で2割前後の減少となった。しかし、先行き不透明な状況が長引き、休廃業・解散は1,899件(同15.6%増)と最多を更新し、事業継続を断念する飲食業者が目立ち始めた。

飲食業休廃業解散推移

「持ち帰り」「宅配」がレッドオーシャン化

 業種別では、「食堂,レストラン」1,281件(前年比14.1%増)、「バー,キャバレー,ナイトクラブ」84件(同33.3%増)、「持ち帰り飲食サービス業」15件(同150.0%増)、「宅配飲食サービス業」34件(同17.2%増)の4業種で休廃業・解散が最多を更新した。
 酒類の提供制限や時短営業要請、接待需要の減少などから「バー,キャバレー,ナイトクラブ」の休廃業・解散の増加は想像に難くない。
 だが、コロナ禍で店内での食事の提供が難しくなったかわりに、中食需要が高まり、好調だったはずのテイクアウトやデリバリー業態でも休廃業・解散が急増した。
 「持ち帰り飲食サービス業」と「宅配飲食サービス業」は、倒産もそれぞれ前年比25.0%増の20件、同47.8%増の34件と大幅に増加している。
 この背景には、急激な事業者の増加による過当競争の影響があるとみられる。
 2021年の新設法人数は、「持ち帰り飲食サービス業」がコロナ前の2019年比44.2%増の75件、「宅配飲食サービス業」が同5.1%増の123件だった。
 元々、飲食業は比較的低コストでの起業が可能で、参入障壁は低い。加えて、テイクアウトやデリバリーに専念する業態であれば、客席などのスペース確保やホール要員もいらず、キッチンなど最低限の設備を揃えれば開業できる。このため、新設だけでなく他業種からの業態転換も多い。これを裏付けるように、事業再構築補助金の採択案件には「持ち帰り」や「宅配」の文字が散見される。
 だが、需要増を上回るペースで新規参入が増えれば、いずれ市場は飽和する。このため経営が悪化する前に、早々に見切りをつける企業も現れ始めたとみられる。

飲食業休廃業解散業種別

 TSRが2022年12月に実施したアンケートでは、原油・原材料価格の高騰によって調達コスト増加の影響を「受けている」と回答した飲食業の割合は100.0%だった。うち、コスト増加分を「転嫁できていない」企業は38.7%にのぼる。同業者間での競争が激しい飲食業では、食材仕入コストが上昇しても、4割近くの飲食店はメニュー価格の据え置きをせざるを得ない状況にある。
 加えて、コロナ禍で一旦は陰に隠れた人手不足もここにきて深刻化してきた。コロナ禍が3年近く経過してもなお業況が回復していない飲食業者には、採用コストの負担や人件費上昇は無視できない。
 飲食業の70.0%が利用したと回答するゼロ・ゼロ融資だが、今年夏ごろに返済がピークを迎える。だが、約半数(47.6%)は返済になんらかの懸念を抱えており、すでに返済猶予を受ける事業者もいる。
 コロナ禍を生き残る期待を背負ったはずのテイクアウトやデリバリー業態でも、すでに市場からの退出が始まっている。これまで数多の荒波に揉まれてきた飲食業だが、淘汰が本格化するのは、むしろ消費回復の薄日が差し始めたこれからなのかもしれない。

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