まとまった資金があるシニア世代が本当にやるべき投資とは?

現役で働く若い世代が行う投資と、リタイアを見据えたシニア世代が行う投資では、そのスタンスは大きく変わってきます。

そこで、CFPでシニア投資コンサルタント・西崎努 氏の著書『60歳を過ぎたらやってはいけない資産運用』(アスコム)より、一部を抜粋・編集してシニア世代の投資との向き合い方について解説します。


若い世代は「資産形成」 シニア世代は「資産運用・管理」

シニア世代が本当にやるべき投資とはどういうものかについて、詳しく解説します。

まずお伝えしたいのは、ひとくちに投資といっても、 現役で働く若い世代が行う投資と、リタイアを見据えたシニア世代が行う投資は、まったく違うものだということです。 大きく分けると、若い世代の投資は「資産形成」、シニア世代の投資は「資産運用・管理」となります。

●若い世代の資産形成
・まとまった資金はまだない
・仕事で定期的な収入がある
・長い時間をかけられる
・コツコツと資産を増やしていく
・多少のリスクはリカバリーできる

●シニア世代の資産運用・管理
・貯蓄や退職金、相続でまとまった資金がある
・仕事の収入は減るか、なくなり、年金などが中心になる
・時間が限られている
・手元にある資産を増やすより、減らさない
・リスクをとって大きな損失が出ると取り返しがつかない

このように若い世代とシニア世代では、投資や前提が異なりますから、やり方も違って当然です。

ところがメディアや雑誌などでは、この大きな違いがあまり語られません。若い世代向けの「資産形成」とシニア世代に適した「資産運用」の話がごちゃまぜになっています。

大衆向けのメディアには、よく「これが買い時」「この銘柄が期待」などと煽るような情報が出ています。多くの人がお金は増やしたいと思っていますから、儲け話は興味を持たれやすいわけです。しかし 投資をよく知る人ほど、そのような情報に釣られることはありません。誰もが儲かるうまい話など、あるわけがないのです。

近年よくメディアで話題になるNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)についても、やったほうがいいのかと聞かれることがあります。

私は、 NISAやiDeCoは基本的に若い世代の「資産形成」に適した制度であり、シニア世代が無理にやるものではないと思います。

なぜなら、制度上の条件や手続きがいろいろあり、簡単にいうと面倒だからです。

そうしたことが苦にならないのならいいですが、私が知る限りシニア世代のみなさんにとって細かな手続きや注意事項は、段々と精神的な負担になりやすい傾向があります。

シニア世代にハラハラ、ドキドキはいらない

人間は誰しも、年齢とともに細々したことが面倒に感じたり、判断力が衰えたりするものです。投資においても同じです。 シニア世代の資産運用では、頻繁に売買が必要な投資や、さまざまな情報に一喜一憂するような投資は避けたほうがいいでしょう。

できる限り、ほったらかしでも安心・安全な運用。これに勝るものはありません。

2020年から2022年の間には、コロナ禍があり、ロシア・ウクライナ戦争が起こり、米国のインフレや利上げにより円安が急速に進んだりもしました。このような事態が起きるたびに、投資や運用の成果に不安を感じたり、ストレスを抱えたりするのは、本当に嫌なことですよね。

経済や社会が大きく動くときに慌ててしまうのは、やってはいけない資産運用に当てはまる金融商品や金融サービスに手を出している証拠です。

具体的には株式の比率が高かったり、特定の金融商品に多くの金額を振り向けたりすることで、リスクを取りすぎているのではないでしょうか。

資産運用する人の中には、株式相場が1割下がっただけで大騒ぎする人もいれば、2〜3割程度下がったところで気にしない人もいます。それは性格の違いもあるかもしれませんが、実際はリスク許容度の差や保有している商品の違い、投資金額の保有資産対比によるところが大きいでしょう。

シニア世代が資産運用を行う場合、ハラハラ、ドキドキする必要はありません。

ギャンブルのように投資を楽しむ人もいるとは思いますが、 あなたが目指すのは高いリスクをとってでも大儲けすることでしょうか。それとも、安定した運用で資産を減らさないことでしょうか。

安定運用を望むのであれば、相場の変動にいちいち一喜一憂する投資は、やらないほうがましです。経済や社会が激変してもできるだけ影響を受けにくいようにしておくことを強くおすすめします。

資産運用というと、儲かりそうな商品や人気のある商品に気を取られがちです。しかし シニア世代のみなさんにとってもっと大事なのは、自分の年齢や最後の着地点を見据え、自分が許容できる範囲のリスクと金額で着実に運用する「資産管理」のほうです。

それでも株式投資をするならインデックス投資が無難でしょう。ただ、これまで多くのシニア世代の相談に乗ってきた経験からいうと、 シニア世代の安定運用には個別銘柄の債券投資のほうが、はるかに適していると思います。 債券は、あまり情報が公開されていませんが、私たちアドバイザー経由ならさまざまな銘柄から自分にあった債券投資をすることも可能です。

リスクの高い個別株や複雑な仕組みの運用商品などが絶対にダメというわけではありませんが、それはライフプランに支障が出ない範囲の余剰資金で、精神的な負荷にならない「サブ」程度に抑えておくべきです。少なくとも、シニア世代が「メイン」とする投資ではありません。

高配当株式への投資などもよく「資産株」などといって推奨されたりしますが、すすめている方を見ると、アドバイザーがいなくとも個人でバリバリ資産運用をしてきた経験豊富な投資家だったりします。そのような人たちの投資のやり方は、一朝一夕で真似できるものではありません。

個別株での運用は基本的に難易度が高く、社会や経済の変動でハラハラ、ドキドキしやすいもの。 たとえ誰もが知る有名企業の株だとしても、決して安心とはいえないので注意が必要です。

腕利きのファンドマネージャーはいるのか?

自分で高いリターンを実現するのは無理。だから、腕利きのファンドマネージャーに任せる投資信託やファンドラップがあるのではないか?

そう考える人もいらっしゃるでしょう。

しかし残念ながら、プロに任せれば成果を出してくれるというのは幻想です。

確かに、投資信託やファンドラップは、運用会社のファンドマネージャーが運用の判断をしています。商品によっては、有名な運用会社のファンドマネージャーが担当することを強調していることもあります。

ただし、その担当が本当に腕のいいファンドマネージャーかどうかは、疑わなければなりません。 金融業界でファンドマネージャーを名乗る人はたくさんいますが、その「儲ける実力」は極めて評価しづらいというのが実態です。

なぜなら、一般の個人投資家が利用できる商品のファンドマネージャーは、純粋にその人の判断や実力だけで運用しているわけではないからです。

どういうことかというと、 多くのファンドマネージャーは、投資信託の目論見書や運用方針に沿って運用しているに過ぎない、ということ。 実力で利益をあげるのではなく、あくまでも目論見書や運用方針の通りに投資する中で最大限効率よく運用することが、ファンドマネージャーの仕事なのです。

市場の平均に合わせる方針のファンドなら、平均が下がればそれに合わせて下がっていてもOK。むしろ平均が下がっているのに逆張りで上がっていたら、運用方針と違うのでNGです。

このようにファンドの目論見書や運用方針からはずれた運用をすると、いくら高いリターンを出しても内部のチェックで問題になります。ファンドマネージャーとはいえ、勝手に運用をしていいわけではありません。目論見書に沿った範囲内の裁量で運用方針を達成し、最大限の成果を出すことを目標としています。

単純に「儲ける実力」を問われるのは、機関投資家や金融機関、超富裕層を顧客とするヘッジファンドのファンドマネージャーくらいでしょう。 しかし、そのような著名なヘッジファンドに一般の個人投資家がアクセスできるわけではありません。投資信託を通じてヘッジファンドに投資する商品もありますが、それはヘッジファンドが運用する投資信託であって、ヘッジファンド本来の運用方法とは限りません。

ヘッジファンド自体が生き馬の目を抜くような栄枯盛衰の激しい業界です。そんな中で「儲ける実力」のあるファンドマネージャーであれば独立します。最低でも億という単位で適度な運用資産額を集め、自由に運用しやすいように解約できない期間を設けたり、管理報酬とは別に成功報酬を得たりするほうが彼らにとってメリットが大きいでしょう。

わざわざ規制が厳しく、労力もかかる「一般的な個人投資家」を対象に資金を集ている時点で「なぜ?」と疑問を持ったほうがいいのではないでしょうか。

60歳を過ぎたらやってはいけない資産運用

著者:西崎努
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