旅先で“再会”「こがんことある!?」 長崎の元中華料理店社長 自分が載った紙面 姿を変え手元に

自分の写真が載った新聞バッグに感激の面持ちの楊さん=長崎県雲仙市小浜町(本人提供)

 「ビックリ!! するような奇跡的な出来事が、つい最近ありました」-。長崎市の元中華料理店社長、楊爾嗣(ようちかし)さん(71)から長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」のLINE(ライン)に投稿があった。店は昨年5月、76年の歴史に幕を閉じたが、取材を進めると、それを報じた新聞が半年以上の時を経て、巻き起こした不思議な物語だった。

 楊さんは昨年5月25日まで、中島川沿いの麹屋町で「中国菜館 慶華園」を営んでいた。戦後間もない1946年に創業した父、正和さん(故人)が苦労しながら商売を広げ、看板メニューのちゃんぽん、皿うどんはもちろん、宴会場としても愛用され、多くのファンに親しまれていた。

 しかし、見通しが立たないコロナ不況や50年以上踏ん張り続けた膝の悪化も相まって、悩んだ末に閉店を決断した。昨年4月27日付本紙に、「料理人の魂込めたちゃんぽん」とのタイトルで、閉店を知らせる記事と、厨房(ちゅうぼう)で豪快に中華鍋を振る自身の写真が大きく掲載された。反響はすさまじく、県内外から客が詰めかけ、最後の1カ月は目の回る忙しさだったという。

 半年以上が過ぎた1月10日。関東から来た友人が、雲仙市千々石町の観光施設の名物「じゃがちゃん」を食べたいと言い出し、妻と3人で雲仙方面へドライブすることに。昼時に温泉蒸し料理店に行ったが、あいにくの休み。「小浜ちゃんぽんにしよう」と近くの店に入りちゃんぽん、皿うどんをそれぞれ堪能した。

 店を出るなり目に入ったのは、隣接する湯せんぺい店「もくもく市場」。お土産にしようと友人が1袋、妻が4袋を購入。古新聞で仕立てたエコバッグに入れて手渡された。紙面のカラフルな写真を生かしたデザイン。「あら、きれかね。ようでけとる」。楊さんが丁寧な仕事ぶりに目を奪われていると、友人が何やら興奮気味に言った。「楊さん、これ!」。裏を返すと、自分の写真が大きく載った、あの新聞紙面だったのだ。「こがんことある!? たまがった」。説明の付かない偶然に感慨無量。3人旅は大いに盛り上がった。数日後には身内の吉報も届き、良いこと続きだという。

 楊さんは「新聞バッグを作ってくれた方たちのおかげで巡り合えた」と感謝している。同店は同市小浜町の就労継続支援B型事業所もくもく(吉原久司管理者)が運営。利用者は取材を通じてこの出来事を知り、「バッグを作っていてよかった! 今日はいい日になります!」と大喜び。「お客さんが手に取るものだから、一つ一つ丁寧に作っています」とコメントした。

就労継続支援B型事業所もくもくでは古新聞を使い、大中小3種類の新聞バッグを作っている=長崎県雲仙市小浜町北本町( もくもく提供)

 「少しでも買い物の時間がずれていたら」「もし別のお店に行っていれば」「湯せんぺいを2袋しか買っていなければ」…。どれか一つでも要素が欠けていたら、味わえなかった奇跡。改まった1年の初めに、ますますいい知らせが舞い込むかも-。楊さんは大切に取っている新聞バッグを手に、うれしい予感に満ち満ちている。

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