【山田正史さん(古本詩人 ゆよん堂 店主)】内野町の小さな古書店から文化を作り、世界へ発信していきたい

山田正史さん(古本詩人 ゆよん堂 店主)

プロフィール
山田 正史(やまだ まさし):新潟市西区内野町出身。大学時代はバンド活動にハマり、卒業後、建築関係の仕事などを経験する。30歳でUターンし、JR内野駅前の書店「ツルハシブックス」との出会いをきっかけに、2019年7月に古書店「古本詩人 ゆよん堂」をオープンする。


ガタチラスタッフ:『新潟人135人目は、『古本詩人 ゆよん堂』の山田正史さんです!10代の頃はあまり本を読んでいなかったという山田さんが本にハマったきっかけとは!?お店をオープンするきっかけやお店に込めた想いをお聞きしました。素敵な笑顔で取材に応じてくださり、ありがとうございました!』

音楽にハマった学生時代

──大学時代は建築関係を学ばれていたんですね!

山田さん:ものづくりや音楽、絵が好きだったので、建築学科に進学しました。工業デザインや建築、インテリアを学び、お店の本棚も手作りなんです。好きなことにはとことんハマる性格で、大学に入ってからバンド活動を始めて、今でも音楽活動は続けています。12時間ぶっ通しで録音作業をやっちゃったりするんですよね(笑)。私にとって、モノづくりの原点は音楽だったのかもしれません。

──多彩ですね!本との関わりはいつからですか?

山田さん:10代の頃はあまり本を読んでおらず、「本」との本格的な付き合いは大学に入ってからです。バンドに本が好きなメンバーがいて、「大槻ケンヂ」の本をおすすめされたのがきっかけです。「作詞のネタ作りにも役に立つから」といろんな本を紹介してくれて、江戸川乱歩などを読むようになりました。

──子供の頃から本が好きだと思っていました(笑)

山田さん:バンドメンバーに勧められなければ、読んでいなかったと思います(笑)。私が好きな文学は、「大槻ケンヂ」や「中島らも」などのサブカルチャーがメインです。このお二人の言葉は胸の奥まで入ってきて、特に影響を受けた作家ですね。

ツルハシブックスとの出会い

──新潟にUターンをしたきっかけは何だったのですか?

山田さん:30歳まで東京にいたのですが、当時の仕事にも行詰まりを感じていました。次の仕事探しをしている時に東日本大震災に遭ったんです。その時に「もう東京には住めない」と感じて、Uターンを決めました。東京には本屋やギャラリーが多く、面白かったですけどね。東京にいたことで出会えたこともたくさんありましたし、自分のベースを作った場所だと思っています。

──「ゆよん堂」をオープンするきっかけを教えてください!

山田さん:ツルハシブックス」という本屋との出会いですね。地元に帰ってきたら、内野駅前に「ツルハシブックス」ができていたんです。オシャレで面白い本屋で、スタッフの人たちと話をしていると価値観が似ていたんですね。当時は震災の影響で“地元で人との繋がりを作る”という想いがあって、その中で「ツルハシブックス」がオープンしたそうです。私もお店を手伝うようになり、地域コミュニティ再生の取り組みにも参加しました。

──地元愛があるんですね!

山田さん:地元を盛り上げたい」という想いがあったんです。東京では、人と人の間に距離があって、ずっといられる場所ではないと思っていましたからね。30歳になって、「もっと人の中に入りたい」、「人と関わりたい」という想いが強くなりました。

──「ゆよん堂」をオープンしたのはいつですか?

山田さん:正式オープンは2019年の七夕です。「この場所でいろんな人と再会したい」という想いを込めて、七夕の日を選びました。「ツルハシブックス」の存在が、私にとっては大きかったですね。お客様との会話があるお店だったので、そこへ客として行っていた時も私自身が救われる場所でした。いろんな人と会話をしたり、ライブをやらせてもらったり…そこでの経験全てが今に繋がっています。

──「ツルハシブックス」は閉店してしまいましたが、その時のお客様も来られるのではないですか?

山田さん:今でも「ツルハシブックスに行ったことがある」というお客様がいらっしゃいますね。当店の看板や本棚はツルハシ時代の物を利用しているので、よく利用されていた方は懐かしがってくれますね。

──「ゆよん堂」という店名の由来を教えてください!

山田さん:中原中也の詩「サーカス」という作品が由来です。その中に、空中ブランコが揺れる音のような「ゆよーん」というフレーズが出てくるんです。ブランコが揺れているように、時間も揺れて、記憶が過去に遡ったりします。これは中原中也記念館の館長さんの受け売りですが(笑)。「本が記憶を呼び戻すきっかけになれば嬉しいな」という想いもあって名付けました。

──古本屋にしたのは、「ツルハシブックス」の経験があったからですか?

山田さん:それもありますし、古本市に出店するくらい本をたくさん持っていたからですかね(笑)。しかし、古本を売ることだけに限定したお店にしたくなかったので、レコードやコーヒー・チャイなどのカフェメニューも提供しています。来店される方には、当店で自分にとって大切な何かを得てくれたらと思っています。「文化を作って、世界へ向けて発信したい」という想いもあり、私が何かを作るだけでなく、様々な人たちの創作の連鎖が作れたらいいですね。

この町から文化を作りたい

──お客様との印象的なエピソードを教えてください!

山田さん:お店にある本をSNSに投稿したら、「おばあちゃんとの思い出の本なんです」と関東から来てくれたお客様がいました。その方は新潟が地元なのですが、「亡くなったおばあちゃんが読み聞かせてくれた本が、どこに行ったか分からなくなってしまっていた」と喜んで購入してくれました。本は記憶と時間に密接に結びついているということを改めて感じた出来事でしたね。本を見ただけで、おばあちゃんの声や部屋の雰囲気を思い出すのだと思います。

──最後に、今後の目標を教えてください!

山田さん:“ゆよん堂大学”という学校を作る」という夢があります。ギターを習いたい人も本を読みたい人も集まれる場所ですね。本屋は知識を提供する側面もあるので、それをビジネスにしてもいいと思います。本好きの人だけでなく、屋号のもとになった「サーカス」のように、驚きや感動、輝き、インスピレーションを与えられる場所にしたいですね。

──素敵な目標ですね!

山田さん:それと音楽アルバムを作ろうと考えていて、少しずつネットで曲を公開しながら、いずれはアルバムを出したいと思っています。県内外を問わず、本屋やカフェなどでライブを展開して、人との繋がりをさらに広げてみたいというのも目標です。文化を作るきっかけになれたらいいですね。

古本詩人 ゆよん堂
住所:新潟市西区内野山手2丁目17-1
営業時間:水・木13:00~19:00、金13:00~20:00、土12:00~20:00、日12:00~19:00、定休日:月・火

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